はじめての猫
Feb,25,2006幼い頃預けられていた家に数匹の猫がいた。障子を破き縦横無尽に家の中を走り回る様を見て、猫とは嫌なものだと思った。以来長い間、猫は苦手な動物であった。34歳の時、日本語を教えていたアメリカ人女性から、「仔猫を拾ったけれど、自分では飼えないから飼ってくれる人を見つけて欲しい」と頼まれた。そう言われても猫が苦手な私に情報があるわけでもなく、とりあえず数人にあたったが全てダメ。そう伝えた日に、彼女から仔猫の写真を見せられた。手の平に乗るくらいの、茶色の虎猫だった。かわいいと思った。おそらく私の表情が変わったのだろう、彼女は今度その猫を連れてくると言った。翌週、大久保のファミレスに籐の籠を抱えた彼女が入って来た。籠の蓋を開けると、小さい生き物がニャアと鳴いた。店内にも関わらず、その仔猫を膝の上に乗せたり、両手で掲げて顔を見たりした。この日のレッスンは終始猫が話題のフリーディスカッションになってしまった。帰りの電車の中で私は籠の蓋を何度も開けて仔猫のからだを撫でていた。90分のレッスンの間に、私が飼おうという気持ちに変わってしまったのだった。生まれて初めて飼った猫との3年は少々異常だったかもしれない。仕事帰りに立ち寄った書店で仔猫のカレンダーを目にすると、無性に会いたくなり他の用事をやめて急いで帰った。朝起きると猫にせがまれるまま1時間も遊んでやった。猫の写真やビデオテープが急激に増えた。旅行の際は妹に預けたのだが、旅先で「猫シック」になり路上の猫に頬擦りしたい衝動に駆られた。その猫が5日も帰ってこない時は毎晩近所を捜し回り、写真入りのポスターを貼った。そして、とうとう本当に帰ってこないというのがはっきりとしたとき、何日も食事が喉を通らなかった。部屋の隅に落ちていた猫の爪と髭を小さな箱にしまって、また泣いた。街角で虎猫を見かけると、思わずその猫の名前を呼んでしまう。(3匹めの猫。現在9歳、元気。)その数年後、里親探しのイベントで前の猫とそっくりな虎猫を譲り受けた。いなくなってしまった猫と同じ名前を付けた。