娘の幼稚園にダウン症のT君がいた。
一見、ハーフかと間違うようなお顔立ち。
でも、行動は他の子とは明らかに違っていた。
入園当初、娘はT君に鼻クソをつけられるので嫌だと言った。
すでにダウン症とわかった私は娘にこう言った。
「T君はね、大きくなっても心は赤ちゃんのお病気なの」
(ちなみにゲイは心が女の男の人と教えてる)
「お友達になりたいから鼻クソをつけるのよ~」
と言うと娘も納得し、その後一切嫌だと言わなくなった。
友達になったつもりか、娘なりにT君の面白さを発見し、私に教えてくれた。
T君は私が知っている他のダウン症の子とはちょっと違っていた。
攻撃的過ぎるほど活発で、おっとりはしていなかった。
家中にお米を散らばせ、さらに室内にホースで水を撒く。
干した洗濯物は全てはずされ下に落ちている。
T君なりの気を引くための作戦なのか・・・
達成感を味わいたいためなのか・・・
気が狂う
ある時は、家を脱出して一人で電車に乗って遠く離れたプールに行ったらしい。
お宅の全ての門に頑丈な鍵がかかっていたのは、大きな家だからではなかった。
そして先日、T君は重大な事件を幼稚園で起こしてしまった。
園バスの運転手がバスから離れた隙に、
鍵を持ち出しエンジンを起動させ、ハンドブレーキも解除してしまったのだ!
もちろんバスはそのまま動き出し、
幸い門が閉まっていたからぶつかって停車したが、
園児が傍にいたらと思うとゾッとした。
将来はバスの運転手になりたいと思うほど大好きなバスを一度動かしてみたかったのだ。
先生の驚愕した姿をよそに、本人はご満悦の様子だったと言う。
T君はいつも運転席の後の席が指定席だったので、操作を覚えてしまったのだ。
なんて賢いんだろう。
(オートマ限定免許の私には到底出来ない)
でも、それをきっかけに園側はT君の在園について考える始めた。
この事件以前にも、小さい子を突き倒してケガさせたり、
電化製品を壊したり、様々な出来事があったらしい。
子供の間でも小さい子にちょっかい出して泣かすので、
正義感の強い男の子達が仕返しをして逆に泣かしたり、
何かとトラブルは絶えなかった。
T君は、就学猶予をもらっているので、実際は小1の体つきだ。
精神と肉体の発達に大きな差が生じてしまってきていたのだ。
でも、園長先生はクリスチャンでもあり、
元々こういう障害を持つ子供こそを引き受けるために建てた園でもあり、
長い間の葛藤が続いたようだった。
園長やベテラン保育士も自分の仕事生命をかけてT君を守ろうとしたが、
結局、T君側が身を引く形で円満退園することになった。
たしかに大きな事件に発展すれば、家庭を持つ身の保育士もそこまで責任が取れない。
あと何ヶ月か一緒に過ごさせてあげたい想いは皆一緒だと思うが、
もし我が子に取り返しのつかないことが起きたら、
それを許すほどの許容量を持っているだろうか。
私もT君の母親なら同じ結論を出しただろう。
心配だったT君の母親とも、今日ランチをしながらお話ができた。
今までの経緯や障害児を取り巻く環境とか話してくださった。
障害児専門の児童施設があるらしい。
我が子が障害児であるために、夫婦間の溝は深まる場合と強まる場合があると言う。
捨て犬同然で施設に預けられた子供達は何を思うのだろう。
私だったらこんなに強くいられるかな?と思うほど彼女は強い。
前の会社の先輩にもダウン症の子供を逞しく育てている人がいるが、彼女も強い。
そして、前向きで飄々としている。
でも、こういう運命を受け入れて強くなるまでにどれだけ泣いて苦しんだんだろう。
私の叔父がボランティアで、大人の障害者の就職支援会の理事長を務めているが、
国からの支援が年々減っていて、年老いた親の負担が大きく圧し掛かっているらしい。
たまたま生んだ子供が障害児だったか、健常者だったかの違いなんだ。
もしかしたら、私がそういう運命を引き受けることになっていたかもしれない。
そう考えると、もはや個人レベルの問題ではない。
かと言って何をしたらいいのかもわからない。
大きなことを言ってのけたわりに、中途半端な結論だが、
実状を知ってもらうために、ご本人の了解を取って書かせていただいた。