スロウハイツの神様
スロウハイツの神様 辻村深月 ある快晴の日。人気作家チヨダ・コーキの小説のせいで、人が死んだ。 猟奇的なファンによる、小説を模倣した大量殺人。この事件を境に筆を折ったチヨダ・コーキだったが、ある新聞記事をきっかけに見事復活を遂げる。闇の底にいた彼を救ったもの、それは『コーキの天使』と名付けられた少女からの百二十八通にも及ぶ手紙だった。 事件から十年―――。売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちの幸せな共同生活をスタートさせたコーキ。しかし『スロウハイツ』の日々は、謎の少女・加々美莉々亜の出現により、思わぬ方向へゆっくりと変化を始める……。『スロウハイツ』二〇三号室。そこには、わたしたちの神様が住んでいる。 人気作家チヨダ・コーキが暮らす『スロウハイツ』の住人たちは、平和な日々を送っていた。新たな入居者加々美莉々亜が来るまでは―――。 コーキに急接近する莉々亜の存在が、不穏な空気を漂わせるなか、突如判明した驚愕の事実。赤羽環のプライドを脅かすこの事件は、どんな結末を迎えるのか……。 環を中心とした『スロウハイツ』の環は、激しい衝突と優しい修復を繰り返しながら、それでもゆっくりと着実に自分たちなりの円を描いていく。未成熟な卵たちが、ここを巣立つ時とは!? 回避するための手立てを何も講じない、見ないように蓋をしてきた事柄は、いつかどこかで破綻する。辻村版「トキワ荘」とも言うべき「スロウハイツ」。住人たちの距離感が心地いい。あちこちに散りばめられた伏線が、最終章で完結する時、涙は止まらなくなった。やっぱり、楽しめるし、心地いいし、みんな好い。「凍りのくじら」からの女性カメラマン・芦沢光の登場とリンクする楽しさがある。えっ、こんな事もあったのか。気になって、もう何度も読みたくなるでしょう。