テーマ:ノンジャンル。(2210)
カテゴリ:ルンゲ警部とクーパー捜査官
「日曜日の日記が更新されていないんです」
匿名のタレコミがあったのは深夜の2時を過ぎた頃だった。 帰宅途中だったルンゲ警部は連絡を受けて現場に急行。現場付近にさしかかったとき、ちょうどクーパー捜査官の車が到着するのが見えた。 ドアの隙間から光が漏れているのが見える。 留守ではないようだが、人の気配はしなかった。 ドアノブに手をかける。ノブは何の抵抗もなく回った。 「鍵がかかっていないな」 足下には脱ぎ散らかしたスリッパが一足。あさっての方向を向いて転がっている。 方向はどうあれ、スリッパがここにあると言うことは、部屋に誰かがいる証拠だ。 「ルンゲ警部、あれを!」 クーパー捜査官が指さした先、そこには一人の男がうつぶせで横たわっていた。 すぐさま駆け寄ったルンゲは男の首筋で脈をとる。 「大丈夫、まだ死んではいない」 西尾環那(28歳・会社員)は、PS2のコントローラーを握りしめたまま倒れていた。 「何かのメッセージでしょうか?」 眉間にしわを寄せるクーパー。 「西尾環那はS○NYがあまり好きではないハズなんだが…」 ルンゲ警部の右手が宙を叩く。こうして彼は記憶を脳から読み出すのだ。 「一番売れてる家庭用ゲーム機ですよ?」 クーパーが右の眉毛をつり上げる。 「本体が何の告知もなくバージョンアップするのが許せないそうだ」 あと、×モリースティックも嫌いらしい、と付け加えようとしたが、クーパーが左の眉毛をつり上げているのを見て、ルンゲは自分の会話に興味を失った。 「よく動く眉毛だな」 「練習したんです」 クーパーはそういって、今度は両方の眉毛を上げ下げして見せた。 「うぅ…」 男がうめき声をあげた。 「環那さん、聞こえますか?」 「うぅ…」 ルンゲが指を2本だして男の眼前で動かす。 「何本に見えますか?」 「…24本」 物理的に無理な話だったが、これだけ言う元気があるなら大丈夫だとルンゲは思った。 「何があったんですか」 忠実に職務をこなすクーパー。 何事も手を抜かない所は嫌いじゃない。ルンゲはクーパーをそう評していたが、実際の所クーパーは手の抜き方というものが一切わかっていなかった。 ミカンの白い繊維は全て取ってから食べる。そんな男だ。 男は人差し指でルンゲの横を指さした。 「PS2?」 クーパーは本体に近づくと右手で触ってみる。 「まだ暖かい!」 なんて事はない。一度言ってみたかっただけだ。 証拠に、クーパーの嬉しそうな顔ったら。 本体とコントローラー。 それを交互に見返したルンゲは、足下におちているDVD大のケースに気がついた。 指紋が付かないように、ハンカチでつまむように拾い上げる。 「そういう事か…」 ルンゲは表情一つかえずにつぶやいた。 代わりにクーパーが眉をしかめてみせた。 「環那さん、明日仕事でしょう。今何時だと思っているんです」 「ベ…」 「べ? 何です、環那さん」 「ベホイミまで覚えたかったんです…」 事件はこうして幕を閉じた。 運転席のクーパーは眉毛をつり上げたまま「シンイチ・モリ」の顔マネをしている。 厳密に言うと、シンイチ・モリのモノマネをする、コロッケの顔マネなのだそうだ。 目的がわからん。 ルンゲはクーパーの横顔を見ながらそう思った。 あまりに不可解な視線を感じたのか、クーパーは気まずそうに 「コーヒーでも飲みに行きますか?」 と適当な事を言った。 「いや、コーヒーを飲むと寝られなくなるんだ」 明日も仕事だしな。と付け加えようとしたが、クーパーが眉毛の辺りを攣っているのを見て、ルンゲは自分の会話に興味を失った。 ネオンもまばらな夜の景色。 窓の外の風景にむかってルンゲは問いかけるのだった。 「何故素直にドラクエ8をやっていたので、日記を書けませんでしたと言えないのだろう」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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