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カテゴリ:平和
気になっていた本(積んでおいたのですが)を、山形行きの新幹線の中で読みました。 安倍晋三元首相が、その孫にまで会いにいったというパール判事についての本です。パール判事は、極東国際軍事裁判(東京裁判)で、日本の戦犯に無罪を判決をしたとのことで、日本の政治的右派に都合よく解釈されていますが、その無罪判決の意図についてパール判事の生涯を振り返る中で論述しています。 パール判事が、高校にも行けないような貧しい家庭に育ちましたが、優秀だったためパトロンがつき、勉学を続けることができたということから始まり、数学の教師であったが、その後、独学で法律家となったという話がありました。彼にとって法律とは、正義と真理が実現されるために必要なものであり、ある種の宗教的な(つまり人間の生き方の本質に関わる)ものでした。ガンジーに傾倒し、その非暴力運動こそ世界の平和を作り出すものと信じていましたし、その観点から、日本の侵略に対して暴力的に反抗していた中国をも非難していたようです。また、共産主義に対しても批判的であったことが記されていました。 そして、問題の東京裁判に対しての見方は、勝者が敗者を裁くという報復・復讐的な意味合いが強いという側面、戦争犯罪ということで人道的罪などは、戦争中は確定した国際法とはなっていなかったことから、法的根拠という側面で被告の無罪を主張したということでした。そして、同じような戦争犯罪というのが裁かれなくてはならないのなら原子力爆弾についても裁かれなくてはならないことも述べられていました。しかし、日本の戦争の侵略性についてはこれを認め、戦争が過ちであったことは語っています。決して日本が正しい戦争をしていたと彼が考えていたのではないということでした。そして、日本の戦後においても、アメリカ依存ではなく、再軍備せず、アジアを大事にする外交政策こそが大切であることを主張していたとのことです。 そうした判決書は、公判では読み上げられることがありませんでしたが、後に邦訳され出版されたということですが、最初のほうが抜粋でなくパール判事の意図がわかるように、すなわち日本のアジアへの戦争が侵略であったという考えが伝わるように全訳されていたということですが、後に出版されたときは抜粋であったということで、意図的に誤解が生じたと思われます。 そして、来日も何度かして、政治的には右派の方々との懇談もしているようですが、一緒に来日した長男の方も、パール判事の非暴力的平和主義を理解していたようでした。 そして、かつて「プライド」という映画があったとき、「パール判事のことを描きたい」として映画の製作者側からは打診があり、映画の賛同をその長男の方にお願いしたとのことですが、実際は東条英機が中心で、日本の戦争の侵略性をごまかす方向であったとのことでした。そして、このことにパール判事の長男は猛烈に抗議したとのことでした。 こうした背景が明らかになるにつれ、パール判事について情報が操作されているということや、平和憲法を変えようとしたあの安倍元首相が、その子孫に会いにいった、などというのは、なんたる認識不足であり、恥ずかしいこととも思ってしまいます。 それにしても、この著者の中島岳志さんについては、『中村屋のボース』も読みましたが、インドという視点からアジアを語り、そして、日本の外交にとって必要な要素を浮かび上がらせている点では、大変興味を持っています。若き研究者ということで、今後を期待しています。(なお、あとがきでは、著者は、自分の考えとパール判事の考えは必ずしも一致するものではないことを断っていますが、思想云々ではなく、学者としての真摯な態度に感銘も受けています。) 本書については、今、母のところにおいてきてしまったので手元にありません。こちらにも感想がありました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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