荒俣宏『水木しげると行く 妖怪極楽探検隊』
「 ちなみに、大きくて肥っていて髭面のくせに変に愛くるしいタイプ――譬えていえば、体は十分に幸福なのに、生き方が不幸で仕事もない、といったような暢気きわまりない巨漢青年を、水木大先生は上等な大トロのごとく好む。もしも大先生に、太鼓腹をさすられつつ、「あんた、何回食べるの?一日五食?」 と訊かれたら、まことに慶賀すべきことである。大先生の好みに合致する体を持って生まれた幸運を喜んでよろしい。その場合、問いかけに対する答えとしては、「貧しいので食えません。腹が減って苦しいです」 と言うのがよい。とたんに大先生は相好を崩され、「そりゃあ気の毒に。じゃあ、一日四食?」 と、問いを重ねてこられるはずだから。 水木しげる大先生が何故に陽気なデブがお好きかといえば、陽気なデブは幸福だからである。天下泰平、食べたいだけ食べ、寝たいだけ寝る幸福を実践していることを、。その体が証明しているからである。だから、貧乏で食えない「肥満体」は、水木大先生にとってはキリストの受難、仏陀の法難、に勝るとも劣らぬ宗教的被虐の主人公に見え、体じゅうの血を騒がす“おいしい”光景なのである。」p.12~13荒俣宏が水木しげると旅行したことを書いています。私は去年辺りから荒俣宏が猛烈に好きで、次々に本を買って読んでいます。幸か不幸か、荒俣宏はとても著作が多く、1冊読んだらまた読みたい本が現れて、なかなか全冊制覇できません。この本には荒俣宏と水木しげるとの対談も少し収録されています。この2人の対談と言えば、DVD『水木サン大全』です。2人が対談しているのをただただ写しているだけです。文字よりも正確に、荒俣宏が興奮している様子がわかります。荒俣宏『水木しげると行く 妖怪極楽探検隊』角川書店、2004年8月、1,680円DVD『水木サン大全』 コム・アライアンス、2004年06月、3,591円