チェルノブイリ診療記
「あるとき病院で突如もよおして、急いで病棟のトイレに駆けこむも、男性患者たちがそこで喫煙していたので、冷や汗をかきながら足早に別のトイレに直行した。無事に済ませて一息ついたのも束の間、はたと気がついてみれば、何と肝心の紙を忘れていた。冷や汗が再びどっと額を濡らした。『ああ、どうしよう』 暗く狭いトイレの中で、必死になってあちこちのポケットを探すと、一枚のハンカチが見つかったのである。『助かったあ!』 しかしそれも一瞬のこと。暗がりの中でよくよく見れば、悲しいかな、それは彼が密かに思いを寄せていた女性からもらった、ピエール・カルダンのしゃれたハンカチであった。彼は迷いに迷った。思案の果てに、この非常事態をしのぐためにはこれ以外に方法はないと心に決め、ついに清水の舞台から飛び降りたつもりで、泣く泣くそれをトイレに流した。 遠くを見つめながら寂しそうに話してくれた彼は、どうにも諦めきれないという表情であった。 彼女はなんと言うだろう。しかしこの病院のトイレ事情を理解してもらえれば、『もうシリません』 とは言わないと思うが。S君もかわいそうに」(p.115~116)先日、「ザ!世界仰天ニュース」という番組でチェルノブイリ原発事故を特集していたのを見て、チェルノブイリ関連の本が読みたいと思って選んだのがこの本です。http://www.ntv.co.jp/gyoten/oa/070620/01.html信州大学を退職し、チェルノブイリの被災地で甲状腺癌の治療をしている菅谷昭先生の体験記です。菅谷先生が見たこと思ったことを淡々と書いています。引用箇所はこの本の中で唯一のシャレです。膝カックンされた感じで妙に面白かったですが、ここだけ抜き出してみるとあまり面白くありませんでした。日本には日本チェルノブイリ連帯基金という団体があるということも検索して知りました。http://www.jca.apc.org/jcf/home.html菅谷昭『チェルノブイリ診療記』晶文社、1998年8月、1,995円