小林泰三『日本の国宝、最初はこんな色だった』
荒俣氏とのやりとりは、実に多くの発見があった。 すでに完成していた「鉄磑処」の復元図では、しきりとうなずいていた。 荒俣氏は、「鉄磑処」に疑問を持っていた。この地獄に堕ちる罪人は「人の物をかすめ取った者」なのだが、そんな罪人がなぜ「鉄磑処」に堕ちるのかが不明だった。 他の地獄なら、罪人と堕ちる地獄の関連性は、明確である。たとえば「鶏地獄」であれば、「生前、動物をひどくいじめた者」が堕ちる。目には目を歯には歯を、の精神である。 なぜ 「生前、人の物をかすめ取った者」が、うすで粉々にされるのか……。 荒俣先生が注目していたのは、うすの下に広がる血の海だった。私はそこに砕かれバラバラになった骨を描き込んでいた。「これはつまり、肉と骨を分離させるために、うすを碾いてるんですな」 骨と肉が分離され、さらに画面右の赤い鬼婆の手によって洗われ完全に骨だけとなる。分離された肉というのは、いわば贅沢をし、ぶくぶくと太った罪のもとであり、それを体から剥ぎ、取り戻す目的のために巨大なうすが登場するに至ったのだ。(p.74~75)生きながら巨大な臼でゴリゴリひかれたら、どんな痛さでしょう。昔の人は想像力が豊かだったのです。この本は筆者が日本の国宝をデジタル復元していく過程で発見したことを書いた本です。時に自由奔放に、時に力強く、今隣で筆者が話しているかのような書きぶりで、おもしろいです。この本にも荒俣さんが登場しました。小林泰三『日本の国宝、最初はこんな色だった』光文社新書、2008年10月、本体価格 1,000円