朝井リョウ『風と共にゆとりぬ』
なぜこの小説を書いたのですか―そう訊かれることが、私は苦手だ。この質問をされるたび、「(あなたの作品より価値のあるものを書く作家はこの世界に何万人とおり、さらに小説以外にも毎日多くの面白い書籍が出版されている中、わざわざこの一冊を作るために大切な資源を利用してまで)なぜこの小説を書いたのですか」と問われているような気がするからである。特に、直木賞をいただいてからは、そんな幻の声がボリュームを上げている。(p.228、第二部 プロムナード) 帰宅し、私は思った。 ものすごく孤独だ、と。 十日の間に、私の精神は完全に幼児化していた。病院にいたころは、傷の経過が順調であれば褒められたし、食事が運ばれる時間にパソコンに向かっていれば「お仕事ですか、大変ですねえ」と微笑みかけられた。言ってしまえば、途中からもう、食事が配膳されるタイミングに合わせて仕事をしていた。褒められるために、である。今では、一日に二回お風呂に入って血行をよくしたというのに、誰も褒めてくれない。(p.309、第三部 肛門記)朝井リョウ『風と共にゆとりぬ』文藝春秋、2017年6月、1,512円小説『桐島、部活やめるってよ』、『何者』等で有名な朝井リョウのエッセイです。図書館の新着図書コーナーで見つけ、気の抜けたタイトルと、美しい装丁に引かれて手に取りました。引用文1つ目。私もこのような思考法の持ち主ですので、共感できました。率直で基本的な質問ですが、自信が満ち溢れているわけでもない人間の場合、このようなことを考えたりします。引用文2つ目。軽めの痔から粉瘤を発症し、痔瘻を併発し瘻管が広範囲に及んだため手術を受け、肛門科病棟に10日間入院した28歳の作者が退院し帰宅した時の感想です。褒めてくれる人がいないので、「自分は一体誰のためにうんこをしているのだろう?」という哲学的な問いにブチ当たったとも書いてありました。この本の帯には、「読んで得るもの特にナシ!!ひたすらたのしいだけの読書体験をあなたに。」と書いてありましたが、本当に、得たものは特にないですが楽しかったです。前作『時をかけるゆとり』もちょっと読んでみてもいいなと思いかけています。朝井リョウ (@asai__ryo)https://twitter.com/asai__ryo風と共にゆとりぬ [ 朝井 リョウ ]