島内景二編『新訳和泉式部日記』
(帥の宮)「奇(あや)しき事なれど、し伸びて、物言ひつる人なむ、遠く行くなるを、『哀れと言ひつべからむ言、一つ言はむ』となむ思ふ。其れより宣ふ言のみなむ、然は覚ゆるを、一つ」と宣へり。(P.163)〈現代語訳〉「いささか常識はずれで、口にするのもどうかとためらっているお願いがあるのです。実は、私がこっそりとお付き合いをしていた女性がいるのですが、彼女は今度、遠くの国へと去って行くことになったようです。私としては、『旅行く女性が、「ああ、見事な歌だ。こんなに良い別れの歌をもらったので、自分は心残り泣く都を後にできる」と思うような名歌を一首詠みたい』と思っているのです。けれども、どうにも、私には歌の才能がありません。これまで、あなたと歌の贈答をしてきましたが、あなたから贈られてくる歌には、いつだって、『ああ、素晴らしいな。こんな歌をもらえる私は幸せだな。自分でも、こんな歌を詠みたいな』と感動しているのです。ぜひ、私の立場で、一首、あなたに代作してもらえませんか」とおっしゃっているではないか。(p.164)島内景二編『新訳和泉式部日記』花鳥社、2020年『和泉式部日記』は、『枕草子』や『源氏物語』と似た時期に書かれた古典文学作品です。収載されている和歌が多く、まるで和歌をつなぐように和泉式部と帥の宮(敦道親王)とのラブストーリーが書かれます。引用箇所は、帥の宮が恋人の和泉式部に宛てた手紙の内容です。何という下種野郎なんだろうと思いました。(※ちなみに、ATOKで「げすやろう」は漢字変換してくれませんでした)和泉式部は宮の期待に見事に応え、和歌の代作をします。それに対し宮は「いと思ふ様なり」と、期待通りの出来に満足な様子です。現代の倫理観で捉えてしまうと宮がサイコパスなように見えてしまい、気に入っている場面です。新訳和泉式部日記 [ 島内 景二 ]