たたみの急死
うぇいくさんちから帰ってきた3兄弟は、自分たちの夕飯そっちのけで、3人がかりでヒヨドリの「たたみ」に水と餌を口に入れ、「あっ、たたみ、うんちした!」「たたみ、棒につかまったで!」と、大喜びの大騒ぎ。まだ、自分から口をあけて餌をとることはできませんでしたが、鳥かごについている棒に、足を乗せると、つかまってじっとできるようになりました。この調子なら、自分で餌をついばむこともそのうちできるようになるかもしれないと思えました。ところが、もうすぐ夜中の12時になろうという時でした。たたみの様子を見に行くと、棒につかまって目を閉じ、こっくりこっくり居眠りしているようです。でも、弱っているのだから、下におろしてやった方がいいのではないかと思い、父ちゃんと相談して、もう1度部屋に行った途端、たたみがぽとりと棒からころがり落ちたのです。そのまま動かなくなってしまったので、私は大急ぎで、太吉を起こしました。そして、ストローで水を飲ませようとしたのですが、たたみはすでに衰弱しきって、何度やっても水を飲み込むことができません。私も太吉も、必死で「たたみ、たたみ、しっかりするんや!」「ほら水やで!水飲んで!」と叫び続けました。見かねた父ちゃんが、「もう飲まれへんのや、喉つめるからやめとき!」と言い、私と太吉は肩を落としました。そして、たたみは、太吉の手の中で、静かに息を引き取ったのです。私も太吉も、あまりにあっけないたたみの死に呆然としました。「元気になってきてたと思ったのに、なんでや・・・」「もっと餌あげたらよかったんやろか・・・」「棒にとまらしたんがあかんかったんかなぁ・・・」「かわいくなってきたのに・・・」「明日、仁吉と三吉、どうなるやろ・・・」太吉は、ショックでしばらくたたみを抱えたまま、つぶやき続けました。襲われやすい小動物は、たとえ命にかかわる病気になってもそれを敵はもちろん、仲間にも、命が尽きる直前まで悟られないようにするという習性があるのだそうです。おそらく、たたみもそうだったのでしょう。さすがに中3になった太吉は、悲しみはしましたが、落ち着いており、「(動物病院の)先生は、こうなることわかってたんやろな・・・。助かるとは言わはらへんかったし、僕らに預けたんもこういう経験させたろうと思ってはったってことやろな・・・」と、つぶやきました。「でも、僕は最後まで看取ってあげれてよかったわ。仁吉と三吉は明日つらいやろなぁ・・・」そう言って、太吉は静かに自分の部屋に戻って行きました。こうして、ヒヨドリのたたみは、保護してから1日もたたないうちに、その小さな命は尽きてしまったのです。