動物の描写@永井龍男の「妙高山麓」
猫の保護や預かりをするようになって、 それまで以上に、読むものの中に出てくる 動物の描写が気になるようになりました。 内田百間センセイの「ノラや」なんか泣けますね。 今日は、ごく最近手に入れた、 ワタシの好きな『四季叢書』というシリーズの中の 永井龍男という作家の『胡桃割り』から ちょっと面白い文章をご紹介します。 『四季叢書』についてウンチクを傾けてると長くなるので割愛して この永井龍男という人、堀辰雄主催の『四季』の同人だったというくらいしか わたしには知識がなかったのですが ちょっと集め始めてしまった『四季叢書』に 永井龍男の『胡桃割り』が入っていて珍しく手に入れられるお値段だったので、つい買ってしまいました。 (携帯ボケ画像で、あまり良さが伝わらないと思いますが)読んでみて、いい本を手に入れたと思いました。 この本の「妙高山麓」という文章の中の一節です。 (古い本なので旧仮名遣いのままです) 深夜眼を醒す。 犬が二匹で家の周囲をぐるぐる追い駆けつこしてゐるらしい。 とても愉快にやつてゐるらしいのだが、人間の僕を起しては興が 浅いと云つた風に、クスンとかフンとかハアとか鼻息や呼吸をこ つそり立てて、ぐるぐる云えを駆け廻つてゐる。 どど、どどと土をこまかに柔かに踏む音が、枕に伝はるかと思 ふと、暫くしいんとする。狙ひを定めて一匹が跳びかゝる。傍ま で来るのを待つてゐて、ぎりぎり一杯でぱつと一匹が逃げ出す。 ――そんな気配だ。ワンともキヤンとも声は決して立てない。水 入らずで素晴しく愉快に遊んでゐるのは確かだ。どうも気になつ て来て眠れない。 そつと蚊帳を出て、腰高の格子戸から外をのぞくと、凄い月夜 だ。黒姫がその名のままに黒々と、打掛をきた姫の姿で目の前に ある。(中略) 処でどうだ。犬は二匹でも三匹でもないのだ。白いの黒いの、 皆小柄なのが六七匹も寄つてゐるんだ。(この辺の犬は皆脚が短 かく背が低い。)此奴等が耳を立てたり垂らしたり、前脚を振つ て「お止(よ)しよ」みたいな格好をしたり、まつたく他愛ない 様子で、家の周囲や池のむかふを追つ駆けつこしてゐるんだ。 人間の居ない風景、とでも云つて置くか。不思議な光景だ。真 夜中の感じだ。真夜中と云つても、夜から夜明けへかけての一時 (いつとき)といふのではなく、その一時(いつとき)から、ま るで別の世界へ入り込んだ感じなのだ。異様な美しさだ。 しばらくぼつとして見惚れて居たが、眠れなくては困るので、 戸を開けてしいつとおどかす。しまつた、見られたかといふ様子 で、みんな一斉に僕の顔を見上げ、いけねえ逃げろと、揃つて前 の道路を田切村へ一散に下つて行つた。 雨の奴いつ止んだのだらう。茅葺きだから、雨音がないのだ。 「妙高山麓」 なんだかおもしろい、いい文章です。 しまつた、見られたか、 いけねえ逃げろ、 そんな犬たちの表情が眼に浮かびます。 しばらく、この本で楽しめそうです。 なな猫ホームでは、二代目りく・かい・くう全員譲渡完了 既に新入りの保護猫たちが到着していますが(苦笑 そのお話は、また後日。。