そらのごきげん（想天流転)

　華やかなイルミネーションが灯る街を歩く。
　世界中がクリスマスを祝おうと胸を躍らせながら待ってい
る。子供も、大人も、たくさんの恋人達も。

　あと数日でやってくるクリスマス。過ごしてみたい人は遠い
空の向こうだ。思い起こせば恋人とクリスマスなんて過ごし
たことがないな。毎年、何かのイベント時期は繁忙期。人に
サービスする側の仕事ばかりだ。でも、それが嫌ではなく、
むしろ自分が作った物を口にして、幸せな空間を作り出す人
たちの笑顔を見るのが好きだ。

　自分が作った料理やデザート。それが目の前の運ばれた時、
料理をはさんで幸せな笑顔になる人たちがいる。その幸せな
ひと時をもらって、私も幸せな気分になる。

　厨房から出て、店の外のウインドウを横切るコック服とコ
ック帽の私を見ながら、あるカップルが私を指差してちょっ
と話した後、そっと手を振って何か言っている。声は聞こえ
ないけれど口の形が作った言葉は「ありがとう。おいしかっ
たよ」。嬉しくなって、笑顔を返しながら一礼。そして心の
中で「幸せなクリスマスを」。そう告げる。

　特別な高価な料理ではなくても、幸せを感じてくれる人が
いる。奢った材料や珍しい素材や、特別な技術は必要ない。
ほんのちょっとの遊び心や心遣い、口にする人の笑顔をいつ
も心の中に浮かべながら作ることが出来れば、きっと誰かの
幸せな笑顔を引き出せるだろう。

　それはよく知った人に対しても、まったく知らない人に対
しても同じだ。誰かの幸せな笑顔を心の中に折りたたんで重
ねながら、少しづつ増やしてゆく。そしてこの季節も私は誰
かのために何かを作り続ける。特別なことじゃないけど、大
切なこと。私自身は特別な誰かと過ごす時間はなくても、誰
かのための特別な時間を彩る、思い出のかたすみに残る何か
を。大切な時間を過ごす人たちの幸せを希いながら。


　たくさんの幸せをあなたに。
　メリー・クリスマス。