花曇り
遠くない雨を呼ぶように
水の匂いして
小さく鈴を鳴らすように
風が花を揺らす
花の香り運ぶ
ゆるやかな螺旋の流れが
部屋の窓に届く頃
午後の穏やかな明るさのなか
雨待ちの私は
静かに薄目をあけて
君を見上げる
花曇りの空より近い
君は
触れることのできる 空
水の匂いはこぶ春の雨雲が
分子を集めて雨を降らせるように
君の肩が私の上に広がり
掌が頬をいとしく包み
想いの分子を集めた粒で
私の名前を降らせ始める
私は小さな植物のように
精一杯体をそらせて
君から降りてくる
甘雨を受けとめる
しずかに
しずかに
上気して熱を帯びた声を
互いの唇でそっと包んで隠しながら
咲く花の触れあう音の
囁き合う音より
もっとしずかに
やがて 花散らす風
髪も心も乱れるままに
嵐となって花を打つ
なんども
なんども
花がせつなく
許しを請う時まで
止むことはなく
部屋の中は
すでに春の嵐
かき乱れて
窓の外も
いつしか春の雨
やがて
花散らす嵐
ネット詩誌 MY DEAR
新作紹介掲載作品
主催者・島様に感謝