新しい出来事があるたびに
ひとつ
ちいさな部屋が心の中に生まれる
うれしいこと
かなしいこと
やさしいきもち
せつないきもち
うすいうすい
紙よりもうすい膜に包まれた
ちいさな部屋は
少しづつ少しづつ
いろんな養分を吸って
しずかに成長してゆく
ときどき熟した粒が
ふるふると香りを放ちながら
絡んだ物事の糸をほどいて
期を見て はちり とはじけては
「あぁ そうだったのか」と
気づきを生み出す
心だから 形はないけれど
もしも形に現すことが出来るなら
それはまるで
一房のみどり色の葡萄
店先に並ぶ葡萄のように
どれも総じておいしいわけではなく
ひとつひとつ
苦かったり
酸っぱかったり
いい香りのものや
とびきり甘いものも
ひとつぶ ふたつぶ
房のどこかにそっと丸まって
密やかに息づいて眠る
おいしいものもなくては
生きてる意味がないもの
ただ おいしいものばかりだと
おいしさに鈍くなってしまうから
おいしいものはほんの少し
生きるための 大切なご褒美
私の心はみどり色の
ひとつの房を成して
音もなく静かに養分を満たしてゆき
はりはりと潤んだ
それぞれの部屋をあつめて
たわわに実らせる
いつか時が止まるその日が来たら
さらりと未練なく
迷いもなく私は風になる
静かに実った
私の歩いてきた時間を満たした果実を
片手に携え 空を見上げて
一陣の葡萄色の風に
ネット詩誌 MY DEAR
新作紹介掲載作品
主催者・島様に感謝