冬の声が聞こえる夕暮れ
暗い夜道で携帯を開く
知らせのメールは
まだ ない
身を切る風に
頬を引っかかれながら
ポケットに手を入れて
暗い家路を急ぐ
自宅ではなく
実家への帰宅
実家の玄関を開けると
明るい光の中
温かい空気が運ぶ夕餉の香りとともに
奥から妹の夫が笑顔を覗かせ
「姉ちゃん いま産まれたよ
元気な女の子
母子二人とも無事で元気」
聞いたとたん体中が温かくなったのは
何も部屋があたたかかったせいだけではない
ちいさくはかなげで
けれど力強く声を上げて
真新しい命が生まれてきた
そのことがこんなにも
体が熱くなるほどの幸せを運ぶ
たった3400グラムの
小さな赤い肌をした生命体が
この世界に現れた
その事実一つが
こんなにも家に光を降らせて
たくさんの笑顔を引き出す
ねぇ
新しい命
君の周囲の人たちは
みんな君の無事と幸せを祈って
君に会うのを楽しみにしていたよ
いままでずっと
お腹越しにしか会えなかったけど
やっと何も隔てずに会えるね
はじめて会うときは
まだ小さな君に
丁寧に挨拶をしよう
新しい光を
曇らせたり汚したりしないように
そして君は
困難に立ち向かう力を持って
自分を傷つけることなく
胸を張って歩いていくがいい
木枯し吹く冬の夕暮れ
新しい物語は3400グラムで幕を開けた
ネット詩誌 MY DEAR
新作紹介掲載作品
主催者・島様に感謝