一人静かに
新しい水の匂いを探しながら
明け待ちの空
深い藍がかかる山の上
山は新しい空を迎えるため
粛々と
無言で準備を始める
草が息づく匂い
木々が幽けくささやく声
目覚めた鳥の
今日はじめての深呼吸
みんな唇に
そっと人差し指を当てるしぐさ
静かにね
そう 静かにね
音の少ない山の上で
そっと歩く私の足元から
ぴしりと
小枝が折れる音を聞き
鳥が戒めるように
「ちー」と一啼き
一秒にいちまいづつ
夜の藍が剥がれていくように
明けてゆく
新しい今日の空
藍から青に移ろう前の
一瞬のミルクティー色の空は
泳げるほどの水の匂い
果てしなく白い霧をつれて
山に朝を呼ぶ
緑さえかき消す白い世界
自分の指すら見失いそうな
深い霧の中
服を静かに湿らせ
波打つ髪に
水滴を載せて
植物のように立ち
静かな気持ちで
そっと目を閉じる
体中の細い部分
髪や眉
睫毛や産毛
その一つ一つに
静かに水滴を震わせながら
空と
ひとつになる歓び
それは
麓から見上げるひとは
山の頂に雲がかかっているねと
暢気に一瞥するだけで
誰一人として気づかないけれど
誰もいない
白く
厳かな静けさの中
=(イコール)の記号が
繋ぐ世界
私はいま
雲の中にいて
何よりも愛する
空の一部になっています
おねがい
誰も見つけないで
空にとけて
霧とともに
消えてしまうまで
どうかこのまま・・・
ネット詩誌 MY DEAR
新作紹介掲載作品
主催者・島様に感謝