窓は開け放って
音楽を聴きながら
山の奥を一人でドライブ
時々大きく口をあけて
流れる音楽に合わせて歌ったり
汗をかいたペットボトルから
飲み物を口にして
車じゅうに緑を取り込む
音楽がかかって
ちょっと軽い感じですが
怪しい者じゃありませんよ
一応念のため
ドライブの途中ふと車を止めて
畑の農作業中の方に声をかけて
収穫物と飲み物を交換したりもする
ねえさんな どこからきんしゃったと
あー 博多です
あらー、ずいぶん遠くからやねぇ
車に乗ったら鉄砲玉ですからねぇ
よかねぇ 私なんかトラクターで
家と畑の往復だけよ
それもある意味小さなドライブですかねぇ
あははは ちがわんねぇ
お茶ありがとね 生き返ったわ
ペットボトルの緑茶二本は
袋の持ち手が指に食い込むほどの量の
とうもろこしや胡瓜 トマトに変身した
ありがとう
感謝
トラクターと老夫婦と別れて
しばらく走ると土手に浮き輪やスコップ
おや?と車を止めて見に行けば
簡単な階段があって
ちいさな川のせせらぎに
降りられるようになっていた
浮き輪やスコップの主も
お昼時で家に帰ったようで
だれもいない
トランクからトマトをひとつ取り出し
ポケットに詰めて
階段を降り
スニーカーを脱ぎ捨てて
警戒心のない少女のように
素足で水に入る
田舎の川のせせらぎ
木漏れ日が落ちる水の中
岩魚の子がついついと泳ぐ
ひやりと冷たい水に冷やされて
木漏れ日と水のレース模様に
心をほっと癒されながら
ポケットのトマトをさっと洗って
大きく一口
あたたかいトマトは
懐かしい祖母の野菜の味がして
少し切なくなってしまったけれど
今回もまたいい感じだったなと
楽しいひと時を締めくくりながら
街に戻る心の準備を始める
また来ようかな
名前も知らない場所だけど
日常を丸ごと捨てて
知らない場所に ドライブ
2010.8
ネット詩誌 MY DEAR
新作紹介掲載作品
主催者・島様に感謝