目に見えない力
きのうは、3回目の母の命日だった。母は無自覚に、見えない力で物事をコントロールしているような人だった。そして、母を取り巻く人たちも、その影響を受けていたように思う。 3年前のきのう、予定では車検から戻っているはずの私の車が、ディーラーの手違いで納車が遅れた。その日は、次女のトランペットのレッスンに行くために、歩いて1分の実家に車を借りに行かなくてはならなくなった。夜、レッスンが終わって実家に車を返しに行ったとき、勝手口のドアを開けると、母がイスに座ってテレビを観ていた。いつもと変わらぬ様子で 「あら、今帰って来たの?」 と振り向き、近所にいながらあまり顔を合わす時間がない娘たちにも声を掛けていた。 「じゃあ、またね~」 と手を振りながら、いつにも増して機嫌の良い母。 それから3時間後に急死し、二度と言葉を交わすことができなくなるとは思わなかった。もし、車が予定通りに納車されていたら、あの日は私も娘たちも母の顔を見ることはなかったはずだ。 もしかしたら、この世で起きることはすべて、こうした力によってコントロールされているのではないかとさえ思えるのだ。