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カテゴリ:書評
私の地元東筑高校出身の芥川賞作家平野啓一郎の野心作。
決壊(上) 決壊(下) 平野啓一郎という人は、才能の塊みたいな人で、 例の芥川賞「日蝕」なんかも、同時代の日本語(むしろ年下)なのに、 ちっとも意味がわからず、 困った人だと思っていたけれど、 今回は、設定が現代日本ということで、 何とか読み通すことが出来た。 しかも、舞台の一部は地元北九州。 勤務先のある黒崎や穴生、戸畑、小倉、高塔山など、 いつにない馴染み深い地名が登場し、 その意味でも、松本清張以来の 「本格的地元作家」という感じで読めた。 話としては、バラバラ殺人が起きるんだけど、 インターネット上の展開をかなり意識的に使っており、 気味が悪いくらい、リアルな作品だった。 ただし、残念だったのが、 主人公であるお兄さんの描き方。 設定が東大出のエリートというのはわかるんだけれど、 それを差し引いても、彼の思考をめぐる描写が 不自然なまでに難解で、違和感を感じた。 彼が語る言葉や描かれているそれ自体は思考は、 非常に難解であるものの生き生きとしており、 ひょっとすると、平野氏自身が自分の 思いを彼に代弁させたかったのかもしれない。 そもそも小説って、少なからず著者の気持ちを 代弁した仕上がりになるものだから、 そういう意味では、 平野氏的には気持ち良かったかもしれない。 でも、一般社会に生きる一人の登場人物としての あの描写は、私にはどうも無理を感じるし、 それはグロテスクな殺人のシーンでも同じように感じた。 とはいえ、この本は興味深かった。 小説としてどうかはともかくとして、 当代随一のインテリ作家が 気合を入れて「現代小説」を書くとどんな風に仕上がるか。 そういった観点では、実に興味深いサンプルとなった。 こういうのを見せ付けられると、 安易に作家とかはなれないんだろうなぁと 思わされ、実にすがすがしい思いにさせられる。 北九州の方にはぜひ一読をおススメする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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