中之島公園の猫たち-SAVE THE CATS IN NAKANOSHIMA PARK-

「おはよう、今日はすっごく寒いね…」
「みんな、風邪ひいてない」

お当番の朝、秘書たちが「猫の部屋」にやって来ると、
すでにお腹をすかせた仲間たちが、いっせいにお出迎え
足元にまとわりつく者、地面に転がってアピールする者、
そして、ジッと何か言いたげに見つめる者

「いやー、毎回のことながら、この風景は圧巻ですな」
「…んなこと言ってる暇はないくらい、みんな切羽詰まってると見た」
「…はいはい」

「ほら、ヒロコが出てるよ」

はちわれ美人のヒロコちゃん
いつもは大人しくて、ひとり静かに眠っていることも多いのですが、
なぜか三度の食事（おやつの時間を含む）には厳しくて
少しスケジュールが狂うと、無言のプレッシャーをかけてくるのです
まさに「猫の部屋」における秘書たちの時計
…まあ、食べ物に関することだけなのですが

この日は噂の人気物件、フリースハウス横に鎮座
ここは、ご飯を作る第一秘書の手元が見える特等席でもあります
どうやら今日は、ここから秘書の動きをチェックするつもりのようです

「しかし、いつもヒロコはこんなに時間に正確なのかな」
「うん、夜だっていつも同じくらいの時間に出るし、不思議だよね」
「もしや、私たちの日だけだったりして…」
「もしや、忘れるんじゃないのとか、行動をチェックしてたりして…」

ぐうたらな秘書たちなら、さもありなん…
『ここは、自分がきちんとしてなきゃダメなんだわ』
ヒロコちゃんが、そう決意していても不思議ではありません

無事に朝ご飯が終わった後、
ようやくヒロコちゃんは、秘書たちの行動チェックを一休み
食後の運動に励もうとしています

「さすがですな、やはりヒロコといえば上に登らないとね」
「うん、以前は空中生活だったもんね」

そうなのです
昔の「猫の部屋」でのヒロコちゃん、生活空間は天井
一日の大半を空中で過ごし、用事のある時だけ地上に舞い降りる
そんな生活を１ヶ月近く送っていました

「あの時も、ご飯の時間になると降りて来てた」
「…確かに」

そんなことを話していた秘書たち
ふと視線に気付き、上を見上げると…
葦簀の隙間から、大きなキラキラしたお目々
ヒロコちゃんは、天井の上から秘書たちの行動をチェックしていました

「あっ、ヒロコさん、そこにいらしたんですね」
「…恐れ入ります、時間厳守で頑張ります」

そのままヒロコちゃんは葦簀の上をスイスイと歩き、
奥の方まで移動していきました

「しかし、上手に歩いていけるもんだね」
「葦簀って上に乗っちゃうと、かなりたわむのにね」

きっと、以前の空中生活で培ったコツが今も役立っているのでしょう

あたりは人影（猫影）もなく、まだみんなウトウトと居眠りをしているお昼過ぎ
食後の運動を終えたヒロコちゃん
ひとりマタタビシートの上に座っていました

「あれヒロコ、降りたんだ…」
「なんでシートの上に座って、キョロキョロしてるんだろう…」

確かに、見ようによっては少し挙動不審
ヒロコちゃんは、あたりの様子を伺っているようです。

そして、次の瞬間

「あっ、ヒロコが転がった」
「うわー、すっごい勢いだよ」

マタタビが大好きなヒロコちゃん
秘書たちが出してきたマタタビシートをいちばんに見つけて、
どうやら誰もやって来ないことを確認してから、思い切り転がり出したのです

「おー、すごいね」
「シート抱えちゃってるもんな」

マタタビシートを抱えたまま、ゴロンゴロンのヒロコちゃん
そのまま一回転してしまいました
なおも転がり続けるヒロコちゃん

しかし何かに気が付いたのか…
ふと我に返った様子でこちらを見ました
シートの間から見つめるヒロコちゃん
その視線に釘付けの秘書たち

「どうしよう…こっち見てるよ」
「ダメだよ、せっかく可愛かったんだから」
「じゃあ、見てなかった振りをしよう」
「そうしよう」

わざとらしくも、一旦、視線をそらした秘書たちですが…
しばらくして、視線を感じてヒロコちゃんを見ると…

『…見てしまいましたね』

まだ転がった態勢のまま、
大きなキラキラしたお目々がこちらを向いていました

慌てて姿勢を立て直したヒロコちゃん
抱えて転がってしまったため、シワシワになった新しいマタタビシート
まるで、それをきれいに直しているかのように…
両腕を広げて押さえていました

「えらいね、ヒロコ」
「本当に、きちんとしてる性格なんだよね」
「そうそう、誰かさんは見習わなくっちゃね」
「そうそう、誰かさんも一緒にね」

そうそう…
どうやら秘書たちは、ふたりとも見習わないといけないようです

『次は、おやつの時間になったらまた出ます』

お昼寝前にも、同じように秘書たちの行動をチェックして、
ヒロコちゃんは暖かい箱の中にもぐり込みました

「よし、今日はおやつの時間が来たら…」
「いつも任務が大変なヒロコに、いちばんにおやつをあげようか」


そして、この日…
ヒロコちゃんは、初めて秘書たちの手からおやつを食べてくれました

ヒロコちゃんを見習って、ぐうたら秘書たちがきちんとするように！
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