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テーマ:「愛」・「命」(2793)
カテゴリ:追悼
以前、こんな話を聞いたことがあります --- 猫は、最期の時を自ら選んで逝く --- ひとりきりで生きてきた猫なら ひとりで逝く以外の道は 知らないかもしれない けれど、その猫を思う人が いつも側にいるのなら… 誰かに看取られて逝くのか? それとも、ひとりで逝くのか? いつ、どこで逝くのか? いくつかの選択肢があると思います 私の聞いた話は、こんな内容でした --- 最期の瞬間まで 大切な誰かの顔を見ていたいと願う子は その相手がそばにいる時に 逝こうとする けれど、大切な誰かの 悲しむ顔を見たくないと思う子は ひとりきりになるのを待って 逝こうとする --- もちろん、それが 真実なのかはわかりません そうあってほしいと願う人間が 作り出した絵空事だと 言われるかもしれない ただ、この世に誕生し 精一杯、生きてきた命が 最期を迎える瞬間だからこそ どちらの思いもわかる気がしました そして、もし 猫が最期の瞬間を 自ら選んでいるのであれば… 側にいる人間には その選択を受けとめて 彼らを送りだす役目があるのだと 私は思うのです モデルとフクが そろって体調を崩したのは 本格的に春を迎えた頃でした もう、彼らとの別れが 近づいているのかもしれない… そう予感せざるを得なくなった時 この最期の瞬間の話を 思い出していました 漠然と浮かんだのは… モデルは、たぶん ひとりきりで 逝こうとはしないだろうということ いろんな思いを抱えてきたけれど 本当は、もっと素直に 甘えたかったはずだから… そして、フクのことを考えた時 甘えん坊の彼だけど フクは、ひとりの時を選んで 逝くのではないか… 何となく、私はそう思ったのです フクと出会ったのは モデルのいた剣先の閉鎖から 遅れること、二ヶ月半後 公園の西側に位置するバラ園が 閉鎖された直後のことです すでに、初代「猫の部屋」は誕生し 一ヶ月が過ぎた頃 猫たちの捕獲と手術 毎日の作業に追われる日々が 続いていました 公園でご飯をあげていた人に 片っ端から声をかけたけれど 閉鎖以降、誰も来られることはなく… 集まった最初のメンバーは 私たちを入れて7人 公園の猫たちを知らないばかりか 野良猫の保護活動など したことない人がほとんどでした 私と第二秘書も 剣先の猫たちしか知らなかったため 長年、バラ園の猫たちを見ておられたSさんに 1匹ずつの話を聞き 公園全域で70匹以上いた猫たちの 個体識別をしました とにかく、目まぐるしい速さで 時間が過ぎていた頃 フクは、今と何も変わらない あの天真爛漫な様子で 私の目の前に現れました 上手く表現できないのですが… 初めて彼に会った時 私は、忘れていたものを 思い出せたような気持ちになりました そう感じたのは それまでの状況と自分の気持ちに 大きく関係しているかもしれません 剣先が閉鎖を迎えた時 私は、絶望と不安 強い憤りで呆然としていました 工事の立て看板を見つけ 閉鎖を迎えるまでの短い時間だけど 自分たちの考えつくことは すべて、やり尽くしたのに… 残された彼らとの間を隔てる 背の高いフェンスを見上げていた時 心と体は、かなり疲弊していたと思います けれど、その後 公園事務所の職員さんたちに出会い 誕生した「猫の部屋」を見た時 私と第二秘書は、ただ嬉しかったのです 水道も電気も必要なかった どんなに寒くても 暑くても構わなかった ガードフェンスで作られた壁でも 天井がなく、雪や雨が 部屋中に降り注いでいても良かった ここが猫たちの新しい居場所になる ここで彼らは生きていける 何よりも、私たちが欲しかったのは 彼らが生きていける場所だったから 「猫の部屋」を目の前にした時 とにかく、言葉が出てこないほど 嬉しかったのです だからこそ、こんな私たちを信じて 協力してくださった職員さんたちに 迷惑だけはかけたくない どんなことをしても、ここを守って いつの日か恩返しができるようにと思いました どんどん、厳しくなっていく捕獲と 数が増えるごとに、タイトになっていく 手術のスケジュール調整 フクと出会った頃は 同時進行で進めるべき作業が山積みで 毎日、頭を悩ませることが たくさんありました そして「猫の部屋」には 新しい環境が受け入れられず 戸惑って鳴き叫び、威嚇を繰り返す猫たちが 毎日のように増えていました あの頃、私と第二秘書は 一日中「猫の部屋」のことばかりを 考えていたと思います けれど、考えすぎて 目まぐるしく変わっていく状況と 「こうありたい」という自分の気持ちとに 知らず知らずのうちに、板挟みになって 疲れていたのかもしれません たぶん、鳴き叫ぶ猫たちの姿に 焦りや不安もあったのだと思います ある朝、バラ園に立てられた フェンスの鍵を開け 当時は公園内にあった「猫の部屋」へ 向かおうとした時 川辺から、植え込みを越え すごい勢いで、こちらに走り寄ってくる猫がいました 整った目鼻立ちの美しいハチワレ その子は、私の足元で ピタッと立ち止まり キラキラした目で顔を見上げました 腰を落として、膝を付き 丸い頭を撫でると ゴロゴロと大きくなる喉 初めて会ったにも関わらず その子は、私の膝に両手をかけて 顔を見上げたまま、声を出さずに 『にゃー』と鳴きました 撫でている間 手のひらに、頭や体をすりつけて 何度も何度も、同じように 声を出さず『にゃー』と繰り返す猫 見上げてくる目は なぜだか、とても嬉しそうで 膝にかけた温かな手を 時折、一生懸命に伸ばして 私の顔に触れようとしました それが初めて会った日のフクです 彼が向けてくる眼差しは とても純粋で、無邪気なものでした 久しぶりに感じた 真っ直ぐな愛情表現 こんなにも、人を求めているのに この子もまた、公園で生きてきた野良猫 早く「猫の部屋」へ連れて行こう 寂しい思いはさせないから… 最初に、そう思いました そして、もう二度と この子も、他の子たちも こんな目に遭わせたくないと思いました 一生懸命に生きている彼らが 安心して過ごせるように 時間がかかっても、焦らずに見守っていこう 今、どんなに鳴き叫んでいても いつかは必ず変わるはずだから… それが、私たちのできること 彼らの新しい居場所となる 「猫の部屋」のできることだと思いました 出会った日から、最期の日まで ずっと、変わらなかったフク いつでも、楽しいことが好き どんな時でも、甘えていたい 悲しいことや、寂しいことは嫌い まるで、そう言っているかのような 彼の無邪気さに救われたことは 数え切れないです 天真爛漫なフクを見ているだけで いつも、スッと肩の力が抜けて 素直になれる気がしました 私たちも 彼や彼の仲間たちと同じように 悲しい時は、楽しいことを見つければいい 疲れた時は、立ち止まって休んでもいい ちょっと休憩したら また、前を向いて歩けばいいのだと… フクは、美しいバラに囲まれて 暮らしていた野良猫です けれど、彼は すべての花を惹きつける 太陽のような存在だったと思います
「中之島公園猫対策協議会HP」 web@nakanoshima-cats.com 「中之島公園の猫たち」 nakanoshima_cats@yahoo.co.jp フクには、本当にたくさん助けてもらいました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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