|
テーマ:「愛」・「命」(2793)
カテゴリ:追悼
バラ園の売店のところにいた子です 人懐っこくて、愛想がいいから みんなの人気者でしたよ --- 私が会った翌日 長年、バラ園の猫たちのお世話をしておられた Sさんに連れられて フクは「猫の部屋」にやってきました それまでに捕獲した子は 初めて来た場所に戸惑って 隠れてしまったり、大声で鳴きだしたり 怒り出したりしたけれど… 彼は、少し時間が経つと ケージや箱の中をのぞきこんだり 部屋の隅から隅までを歩きまわったり こちらが拍子抜けするほどでした 落ち着くまではケージに入れて 体調が悪くないか、ケガなどがないか 毎日の様子を見ながら 少しずつ、新しい環境に慣れさせて… 毎回、新しい猫が来るたびに その段取りで作業していたけれど すでに、Sさんが手術を終えていた彼は 最初から、ケージいらずの子でした 疲れてしまう日も多かった頃 まるで、みんなを癒すために 「猫の部屋」にやって来たかのようなフク 今でも時々、考えることがあります あの時、フクは どう思っていたんだろう? 本当のところは 彼に聞かない限り、わかりません けれど、ひとつだけわかったのは… 彼は、人間が大好きだということ 自分を見て、笑顔になる人 背中を優しく撫でてくれる人 いつも美味しいものをくれる人 甘えると喜んでくれる人 そんな人たちに会うことが フクは、大好きだったのです いつでも、誰にでも 最大級の愛情表現をするフクを 誰もが野良猫には見えないと言いました けれど、そんな天真爛漫な彼が 生まれ育った公園にも いろんなことはあったと思います 野良猫として生きていた彼らは 一日中、外で暮らすことや 側に守ってくれる人がいない生活を 理不尽だとは思っていません そもそも、その生活しか知らないのです 他の生活があることを知らないなら 比較して羨むこともない もしも、寂しさや怖さを感じたとしても その暮らしを受け入れるしか 手段はないのだから… たぶんフクも、そうだったはずです それを感じたのは 外見からは想像できないほど 彼の逃げ足が速かったこと どんなに気を抜いて ゴロゴロとまとわりついている時でも 突然、何かが起これば 驚くほどのスピードで いちばんに逃げ出していたフク 普段の彼からは、考えられないほど 険しく、強張っていた表情が 今までの生活を物語っているようでした 愛想よく、甘えるだけでなく この表情も、逃げ足も 野良猫として生きてきた彼に 必要だったもの 逃げてしまったフクを追いかけ 安心させようと伸ばした手に 顔をすり付け、喉を鳴らしていた彼 指の間から見える 少し情けない顔をしたフクの顔が いつも、切なかったです 彼と一緒に過ごした日々で Sさんや司令塔Aさん、お当番さんたち そして、私と第二秘書は たくさんの笑顔をもらいました 「猫の部屋」を訪れた多くの人たちも 熱烈ともいえるほどの彼の歓迎ぶりに いつも、みんなが笑顔でした 野良猫として生きてきた彼が こんなにも、真っ直ぐに 人を好きでいてくれたことが 私は、とても嬉しかったです 「中之島」と名付けた苗字を変える 出会いが訪れることはなかったけれど 私たちの笑顔を見て もし、彼も嬉しかったとしたら… 「猫の部屋」に連れて来て良かった 彼に出会えて良かった… 本当に良かったと思います モデルが亡くなってから 悲しみに沈んでいた私たちの気持ちを 引き上げてくれたのは やはり、フクでした 彼が最期まで望んでいることは 「猫の部屋」にいる全員が わかっていたと思います 美味しいものが食べたい たくさん甘えたい 甘えん坊で食いしん坊のフクは どんなに体がしんどい時でも 口内炎が悪化して痛みがある時でも ご飯を食べようとしました そして、足元をふらつかせながらも 側に来て、甘えようとしました 少しでも、体が楽になるように 毎日通った注射も 日ごと、効き目が短くなっていたのに… それでも、頑張る彼を全力で支えよう 彼の望みを叶えたい 笑顔で側にいたい いつも私は、そう思っていました 亡くなる三日ほど前には すでに、少し動くだけで つらそうな状態になったフク もう、この子まで逝ってしまうんだ… そう思うと、彼の前で 笑顔でいることがつらかったです それでも、フクは まるで、大丈夫だと伝えるかのように 仕事帰りに差し入れた、お刺身を口にしたり ミルクを舐めたりしてくれました そして、ふらつきながらも 私の手に頭をすりつけて 声を出さずに『にゃー』と鳴きました 何度も、何度も… ---猫は、最期の時を自らで選んで逝く--- なぜ、彼なら ひとりの時を選んで逝くと 私が思ったのか… それは、誰かが側にいる時なら 彼は、ずっと甘えていたいと思っているから きっと、誰かが側にいれば 甘えられるだけ、甘えて ひとりになった時、ほっとして 眠りにつくのではないかと思ったのです 亡くなる前日、5月10日 もう、何も食べられなかったけど ご飯を作ってくれた優しいYさんに フクは、朝から甘えていました 長い間、可愛がってもらったSさんには 抱っこしてもらいました そして、大好きだったMさんの膝で たくさん撫でてもらいました きっと、彼は嬉しかったのでしょう Mさんの腕に手をかけて 何度もポンポンと叩いていたそうです 起き上がる力もなく、動けなかったけれど やっぱり彼は、いつもと変わらず 側にいる人たちに甘えていたのです 夜、仕事を終えて向かった「猫の部屋」には たくさんの人たちがいました 部屋の真ん中に作られた 彼が横たわるベッドを みんなが囲んでいました 枕元に座り、頭を撫でると 彼は、少し目を細めて やっぱり、いつものように 声を出さずに『にゃー』と鳴きました それは、最初に出会った時から ずっと、私が大好きだった彼の仕草… あの時のフクは どこか嬉しそうな表情に見えました ああ、たくさん人がいるから みんなに甘えられるから… ベッドを囲む人たちを見て 彼は嬉しいのかもしれないと思いました 私がトイレに立とうとした時 フクは、一生懸命に手を伸ばして 私の腕をぎゅっとつかみました 思いがけず、強い力が込められた フクの柔らかな手… その様子をみて、みんなが 「行ったらダメって言ってるよ」と笑いました そして、戻ってきたことに気付き フクが首を上に向けて、私の顔を見た時 「遅いよって言ってる」と また、みんなが笑って… 私の横には、彼が大好きなシャムちゃん 棚には、彼のいいライバルだった くーちゃんがいました 彼を見つめる人たちが笑顔になって 彼の大切な仲間たちがいる風景 いつもと変わらない 一日の終わりを フクは、満足してくれたでしょうか… 5月11日、午前5時過ぎ 様子を見に行かれたSさんから メールが届きました ---フクちゃん、旅立ってしまいました--- 夜中まで「猫の部屋」にいた みんなを見送って… たぶん、すぐに彼は 永遠の眠りについたのでしょう 彼の最期の顔は とても優しく穏やかでした
「中之島公園猫対策協議会HP」 web@nakanoshima-cats.com 「中之島公園の猫たち」 nakanoshima_cats@yahoo.co.jp 皆さんには、ご心配をおかけしましたが お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[追悼] カテゴリの最新記事
|