イギリスで【サー】の称号を持つアンソニー・ホプキンスは大好きな俳優の一人で、彼が出演している映画なら何でも観てしまいたい私です。
その中でもこの【日の名残り】は心の奥に深く静かな感銘を残した映画でした。
主演のアンソニー・ホプキンスは昔気質な執事【スティーブンス】を演じます。
執事たるものは【品格】がなければならない、と。
スティーブンスの父親もまた嘗て【品格】ある執事をしており現在は引退の身。
ところが彼の勤めるお屋敷が人手不足になり、父親を職場復帰させるのですが、何分寄る年波でかつての執事としての才能を発揮できず、次々と失敗を重ねます。
息子のスティーブンスは父親を気遣いながらも執事として見逃すわけにいかず父親の職をどんどん降格させるハメに。
屋敷の主は人事など切り盛りのほぼ全てを執事スティーブンスに任せきり。余程の信頼を得ていたのでしょう。これだけの信頼を得れば増長しそうなものですが、そこは執事としての【品格】にこだわる信念の持ち主ですからあくまで主には忠実です。
このあたりのスティーブンスの心情や反応など様々な場面を表情は無論、その身のこなし全体であますことなく表現している所は流石名優、惚れ惚れしてしまいます。
いかに俳優とはいえ、同じ人物があの恐怖のハンニバルを演じたとは思えないほど見違える演技ぶりです♪
日本人としての感覚で捕らえるならこの執事の【品格】は【武士道】と共通する点があるようにも思えます。現代人には理解不能なほどの【主への傅き】も、欧米人よりも寧ろ日本人の方が理解しやすいかも知れません。
それもその筈(?)後で触れますが、原作を書いたのは5歳で渡英、1983年イギリスに帰化した【カズオ・イシグロ】という日本人なのです!
さて、映画に戻って・・もう一人注目すべき助演者【エマ・トンプソン】は屋敷の女中頭役で出演しています。
彼女は執事のスティーブンスの人柄に惚れ、スキあればそれとなく迫るのですが、スティーブンスは執事の【品格】と立場からことごとく拒絶します。
もぉ、じれったくて頬っぺたを叩いてやりたくなるほどです(^^;
この【エマ・トンプソン】、実は今も封切り中の【ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団】にも出演しています。あまりの役柄の違いに気づかない方も多いことでしょう(^^;
1950年代と1930年代を行き来しつつ展開する【執事物語】ともいうべきこの作品は全編を通してイギリス貴族の重厚な屋敷を背景に執事という【職業意識】と人間としての【生き方】の狭間で揺れ、やがて全てが己が手からこぼれ落ち、老いた我が身だけが取り残される結末で終わります。
そう書くと何だか寂しくて侘びしくてと思われるでしょうが、そうでもありません。
彼のこころには後悔もあるでしょうが、納得と満足もそれ以上に充ちているでしょうから。
さて、同名の原作ですが、さきほど書いたように作家は日本人です!
帰化しているので国籍はイギリスだし、教育を受けたのもイギリスなのでしょうが、【カズオ・イシグロ】なる名前は立派に日本人ですよね(^^;
文庫本で出版されていて、かなり人気も高いようです。
私は映画しか観ていないのですが、そのうち原作も読んでみようと思っています。
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