髪切り式
「お母さん、姪の髪切り式に参加したい?モンゴルの伝統的風習だよ」
ナーダム(年一度のお祭り)やゲル体験(遊牧民の家)は観光コースがあるから体験できる。しかし、個人の家で行われる日本で言えば七五三的行事は、おいそれとは体験できない。
参加しない手はないのである。
その日は髪切り式には良い日。対象者はバアスカの姪のエンカ。
朝から2人のお姉さんが一生懸命料理を作る。ご隠居もチキンを焼いてヨーグルトサラダ作って参加する。
お客様は、40人ほどだという。
メインは羊の半身の蒸し焼き、豪快。
バアスカのお父さんが誓書みたいなものを読み、今日の主賓の人がエンカの髪にハサミを入れる。近親者から段々に鋏を入れる。「美人になりますように」とか「幸せになりますように」とか言って、キスをする。
エンカは小さなポシェットを掛けていて、髪を切った人からそこにお祝いのお金を入れる。
事前に郵便局でバアスカに言われ伝統的な袋を買った。「いくら入れたら良い?」と日本円にして8,000程袋に入れたら、お姉さんがもっと少ないから多すぎるよと言われ減らされた。袋に入れて持っていると。
さてバアスカの番が来て、彼は財布を開いて見ている。覗くと一万円札が一枚だけ入っていた。ちょっと考えてその一万円札をエンカのポシェットに。
「えええー」自分だけ多いじゃない。
この裏切り者。
「だって、5,000円札有ると思ったのに無かった」だって。
そして誰もが祝儀袋じゃなくて現金むき出しで入れている。
客はいっぺんに来なくて、少しずつやって来る。その度にバアスカが甕から馬乳酒を大きな銀のお椀に注いで振る舞う。私達は酸っぱいので一口がやっとだったが皆、全部飲み干すのだった。
お客は入れ替わり立ち代り来たり、帰って行ったり。帰りにはお菓子やジュースのお土産を渡されていた。
そういえば私達2人は伝統的な服のデールを着せられたが、エンカの父方のお婆さん(遊牧民で遥々遠くからやって来た)だけがデールを着ていた。
外国人が伝統服を着る不思議。
そして、全員が帰った後、何が起こるか。
エンカが両親に連れられて美容室へ。エレベーターを降りた。
帰って来たエンカの頭は丸坊主だったのである。
これが髪切り式の終わり。
その後街を歩いていてよく見ると、ツルツル頭の女の子が結構歩いていた。