この本を手にしたのは30年以上も前になる。
「灰色の男たち」に盗まれた時間を取り戻すため、1人で闘った風変わりで粗末な身なりをした女の子「モモ」の物語である。
ドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデの代表作でもある。
灰色の男たちは、あの手この手で人々に時間を節約するよう勧める。
しかし、節約した時間は当の本人には残らず、片っ端から彼らに奪われてゆく。
そのせいで人々は心のゆとりを失って、更に節約しようと躍起になる姿が描かれている。
モモは年齢も素性も分からない。
住まいは廃墟となった円形劇場で、いわば文明社会の枠の外で生きる存在である。
そんな彼女だからこそ、時間に追われて本当に大切なことを見失っている人に、ゆとりある人間らしい生き方とは何なのかを見つめ直す機会を与えてくれているのだと思う。
調べてみたら、今年で執筆50年になるそうだ。
そして、時間に追われる状況が50年前と何ら変わっていないことに驚かされる。
エンデは「時間とはレーベンだ」と書いている。
レーベンとはドイツ語でライフに当たり、「時間とは命だ」とも訳せるという。
時間を使うこと、それは命を使うことにも等しいのだ。
彼は、この本を通して私たちに「何のために命を使うのか」と問い掛けているように思えてならない。
そして、現代人に対する鋭い風刺でもある。
残り少ない人生を有意義に生きようと、改めて思った次第である。