なにも願わない手を合わせる
ねえ、また暗い話してもいいかしら。今朝、新聞みたら、また一人、また一人イギリス人兵士が死んでしまった。イラク戦争は終わりを告げてもう何ヶ月にもなるのに。こうして、一人、一人と死んでいく。新聞の片隅によ、そういう小さな記事がひっそり載っているのをみて、戦争の「せ」の字も知らない、危険の「き」の字も感じられない英国に住む英国人が何を思っているのでしょうか。こうやって、無駄な命が消えてしまうわけよ。日本の自衛隊だって、ひとごとじゃないよね。いやだなあ。こういうの。非常にいやだなあ。一人の人間の命って、こんな新聞の片隅で済まされるような、そんなもんじゃないんだよ。この前、猫の俳句にもあったじゃない。生きているだけで、それだけで十分なんだって。トニー・ブレアがね、いうんだよ。兵士が死ぬたびに。(おいおい、また彼の登場か、あんたも好きだねえ)My feeling is with you.ウソつき野郎。そう思ってしまうの。ちなみに英国人が同情を示すときによく使う言葉なのです、これは。私の席の隣で働いていたインド人の女性の妹とその従姉妹2人が交通事故で亡くなったとき、その同僚がしばらく会社を休んでいた。そこで周りの社員がカードにメッセージをしたためたときも、この言葉がよく使われていた。そんなカードをずーっと見つめながら、このありきたりの言葉がとても軽薄に思えてしょうがなかった。人は人の死をうわさする。かわいそうだよね、たいへんだよねえ、と。イギリス人は優しい。ちょっとしか面識がないのに、「できることがあったら言って」とか、同情の言葉を口にする。なんか違う、と思ってしまうのは私が日本人だからでしょうか? 或いは、きっと、皆あまりにありきたりの言葉を使うから、私自身が飽きてしまったのか、また或いは私自身が人の優しさを素直に受け取れないヒネクレ者なのか。藤原新也という人の著書にね、こんな題名があるの。「なにも願わない手を合わせる」(藤原新也が体験した死別などの別れについて書いた、とても繊細な短編集)私が死者とその残った人に送れるのはこんな気持ち。言葉なんて出てきませんよ。あなたの辛い気持ちはわかっている、なんて冗談でも言えません。NinjaCat姐さんね、あるサイトに寄稿してるんだけど、それをここに載せてもいいかしら。 ◇◇◇ダニー・ボーイ 以前、車で通勤しているとき、もっぱらラジオを聴いていた。そのころ毎日片道80キロを通勤していたので定期的に道路情報を聞かないわけにはいかなかった。 その日の朝も、いつものとおりラジオを流したまま。 DJがエバ・キャシディ(Eva Cassidy、歌手、既に癌で他界)の心洗われる次の曲は、といった後に流れた曲に思わず涙してしまった。 とてもピュアな歌声に心洗われるどころか、心がつまってしまい、心の窒息状態に待ってしまった。 その曲の名はダニー・ボーイ。 皆さんもこの題名を聞いたことがあるのでは? アイルランドの民謡で、ロンドンデリーの歌とも呼ばれるものだ。英語の歌詞に私なりの訳をなるべく口語にしてつけてみた。Oh Danny boy, the pipes, the pipes are callingFrom glen to glen, and down the mountain sideThe summer's gone, and all the roses falling'Tis you, 'tis you must go, and I must bide. But come you back when summer's in the meadowOr when the valley's hushed and white with snow'Tis I'll be there in sunshine or in shadowOh Danny boy, oh Danny boy, I love you so. But if you come, and all the flowers are dyingAnd if I am dead, as dead I may well beYou'll come and find the place where I am lyingAnd kneel and say an "Ave" there for me. And I shall hear, tho' soft you tread above meAnd all my dreams shall warm and sweeter beIf you will bend and tell me that you love meThen I will sleep in peace until you come to me.おお ダニーボーイ、バグパイプが響き渡るあの山から この山へと そして谷から谷へ夏は終わり、バラの花弁も落ちてでも お前は行かねばならないこの草原に夏の日がさす頃 戻ってきてそうでなければ、この谷が雪に覆われる頃に太陽の陽が射しても、陰っても、私はあなたの帰りを待っているダニーボーイ、お願いだから帰ってきてもし、お前が戻る頃、花も枯れて、そして私も死んでいたらお前は私の眠る場所を探してやってくるそして、お前は跪いて言う 戻ってきたよって私はお前のやさしい足音を聞くそれだけで、私の見ている夢はずっと温かく優しくなる私のそばにきて、愛しているといってそして、私は心安らかな深い眠りにつくいつかまた お前に会う日までこれは、戦争に行った青年を想う母親の歌と言われている。イラクやイスラエル、パレスチナ等でいまだ血生臭い戦争が行われており、イラクには、このイギリスも、そして日本も兵隊を送った。 一人一人の兵士を想う家族の想いは計り知れないし、現地イラクの人々にもたくさんの犠牲者が出た。どちら側にとっても「戦争」の被害者であることには変わりない。早く世界中の兵士達が家族の元に戻れることを心から祈りたい。 ◇◇◇母親が戦争に旅立っていった息子を想う歌。母親は死んでも、なおかつ墓からもずっと息子の帰りを待っていると。その時はその息子だって戦死して戻ってはこないだろうに.....それでも待ち続けるという悲痛な母親の想い。これは決して、この歌のために特別に誇張された詩ではなく、子供を持つ親だったら、どの親もきっとここまで想うのだと私は思う。(余談だけど、私も含めて海外で暮らしている人、海外でなくても親と離れて暮らしている人はたくさんいる、きっと親は遠いところから私達を心配してくれているんだよね。例え、戦争なんかにいかなくても。元気であるとしっていても)このね、エバ・キャシディ(Eva Cassidy)の歌声を聞いてごらんって。ほんと、心打たれて泣きたくなる。いつも怒ってばかりの元気なNinjaCat姐さんだって泣きたくなる。何の説明もいらない、とにかく心が洗われる。一人静かに心を落ち着かせたいとき、ぜひ聞いてみてください。(トニーブレアに聞かせたいよ。)←しつこいこのエバ・キャシディ、どの歌からも平和主義者で、シンプルで飾り気のないポリシーが感じられて、それなのに、彼女自身、33才の時に癌で逝ってしまったのです。本当に残念。物事って不思議、彼女のことを知って、もっとその澄んだ歌声を聞きたいなあ、と思ったら、その人はもう既に他界している......★ 「戦争なんて嫌いだあ~!」