カテゴリ:カテゴリ未分類
百田尚樹著の「幻庵」は2016年に出版された小説だが、途中で目が悪くなってしまい、少しずつ読み進めて最近読み終わった。
第11代井上因碩(幻庵因碩)の一生を描いた物語で、この間に本因坊家の棋士では元丈・丈和・丈策・秀和・秀策・秀甫らと関わっている。有名なライバル丈和との争いを中心に、当時の碁界の様子が生き生きと描かれる。 文学的な見識に乏しいので書評などはできないが、読みやすく面白い。いかにも格式高く難解な表現も多い川端康成の「小説名人」に比べると、碁の内容に踏み込んだ部分が多く、「碁の話」感が強い。アマゾンの書評など見ると、碁を知っている人から評価が高いが、碁を知らない人からは、碁の内容の部分が分からず残念、という感想が多い。碁も知らない人にも興味を持ってもらいたいという思いに溢れた作品なのだが、成功したとは言い難いようだ。ただ、碁の内容の部分も「因碩は大きく構えた。そして左下で白石をぐいぐい下辺に押し付けて厚みを取ると、次に右辺の白の肩をついた。~~」と言葉で説明されるので、碁打ちでも、よほどの古碁マニアでなければ良く分からないのだ。 文学的な評価は分からないが、小説名人の焦点が人物なのに対し、この本は「碁」こそがテーマだと思う。とにかく著者の碁への深い愛を感じて、それだけで心地良くなれる、まさに碁打ちのための本だと思う。 幻庵始め、登場する人物も碁を愛する人ばかりである。ただ、当時の様々な制約などあり、苦悩もある。特に大きな存在が不治の病だった肺結核である。物語の核になるような登場人物、桜井知達、奥貫智策、赤星因徹といった期待される天才棋士が、若くして命を落としてしまう。最後まで石を握り続ける彼らの姿が印象的だ。エピローグにある、昭和の時代に爆風で対局場の窓ガラスも碁石も吹き飛んだのに、同日に対局を続けた橋本・岩本の本因坊戦にもつながって行く。 若いころに読んだ橋本宇太郎著の日本囲碁大系「幻庵因碩」の中で、特に強烈な印象が残っているのは、最初に載っている秀和との争碁の一局だ(天保13年 先相先 秀和の先番6目勝ち)。この碁はこの小説のハイライトにもなっていて、幻庵生涯最高の一局と言われている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Apr 27, 2020 10:18:15 PM
コメント(0) | コメントを書く |
|