停滞期・痛恨の出来事
A子ちゃんのこと 以前囲碁教室を開いていたS先生は子供を教える天才だ。私がポンヌキを教えようとして何度も失敗していたうちの子にも、初日にすぐポンヌキを教えるのに成功した。それをきっかけに子供を送って月に何度か教室に行くようになった。 S先生の孫のA子ちゃんは当時2年生くらいだったが、頭が良くて負けず嫌いで目を見張る速さで上達して行った。高学年になると小学生の大会で良い成績を上げるようになり、主に小さな子供を相手するS先生に替わって、私が相手をすることが多くなった。小学生の全国大会に出場し、その後から他県の強い子をライバルとして意識するようになった。S先生もかなり持ち上げるので、本人も自信を持った様子だった。ちょっと背伸びし過ぎな感じがして気になってはいたが、子供はどんどん強くなるのでまあ心配ないかと思った。 ところがその頃から、教室で対局していてどうも以前と違う感じを受けるようになった。極端に手が伸びなくなったのだ。工夫しようと考えることが減って、アタリアタリや生ノゾキで決める事が多くなって、以前のように対局を楽しんでいる様子が見えないと感じていた。毎年どんどん上達していたのが、その後の1年はあまり上達がなかった。そして、次の年の大会で良い成績が出せず、これをきっかけに弟と一緒にピタッと碁を止めてしまった。Sさんの教室は孫のためという要素が大きかったので教室もここで終了となった。 停滞期 A子ちゃんの事は痛恨の極みだった。負けず嫌いが裏目に出た形だけれど、本人の勝ちたい気持ちに引きずられて、碁の楽しさを十分に伝えられなかったのではないかという思いが残る。誰にも上達の停滞期はあるものだが、聡明で負けず嫌いの強い人ほど、危険な壁になってしまう気がする。停滞期には、錯覚していた自分の実力に気づいて混乱する事もあるけれど、続けて行けば必ず次の上達期がやってくる。 ヒカルの碁にも子供教室で心が揺れて碁を離れてしまった設定の子が登場するが、構成者の棋力の変動が大きい子供教室という環境もリスクになり得るようだ。目標として最適な2目強くてさらに棋力の変動が少ない大人の相手が見つかり易い碁会所の環境は、実はたいへん優れていると思う。