私の大学教育の基本は次の2つです。
1)試験で監督をしない、
2)講義に遅れたらしばらく立たせておく。
試験の監督をしないのは、「試験は単位が取れるかどうかではなく、勉強した自分がどのぐらいの力になったかを知るため」であることを普段から教えますので、当然のことです。
普段の講義の時、学生に次の2つのことを教えます。
1)この科目を勉強したくなかったら講義に来なくて良い。講義にでて眠っていては人生のムダだ、
2)お習字を習いに行って課題を出すときにお習字の上手な人の書いたものをコピーしても意味が無い。
もう一つは、「約束を守ること」です。講義に遅れた学生は適当な時間、後ろに立たせておき、「人間にとって約束を守ることがもっとも大切だ。大学で難しい物理を学んでも、人との約束を守れないなら物理など勉強する必要がない」と教えます。
この場合の約束とは「何時何分から講義が始まる」ということで、先生も学生もこの単純な約束を守ることが大切だからです。どんなに偉そうなことをいっても、どんなに力があっても人との約束を守れないような人が大学を卒業する価値はないと言います。
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この2つを大学で教えている私にとって、2011年の原発事故が起こった後、1年1ミリという約束を破ったマスコミ報道、2012年の国会で消費税増税が衆議院で可決されたことは驚きでした。
「1年1ミリ」は「日本は原発を進めるけれど、国民の被曝はどんな時(事故以外では原則として原発では被曝しない)でも1年1ミリに納める」という約束(法規)があるし、現実にそれができるのに約束を守らなかったということでした。
また、2009年の選挙で公約、マニフェストに掲げたことをほとんどやらず、その正反対の政策(増税)を可決したことです。私にとってはこの2つは理解する事はできず、また許すこともできないことです。もしこのようなことを「正当」とすると、学生を教育することができなくなります。
まさか、学生に「約束を破っても良い」と教える訳にはいかないからです。そして私はマスコミの偉い人がなぜ約束を破ることに甘いのか、理解ができないでいました。
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ある新聞の社説を読んでいましたら、私の疑問が解消されました。その社説では「すでに民主党政権ができて3年経ったのに、公約は何一つやっていない。やらないのだから、民主党の公約はないも同然だ。だから、増税は当たり前で、それに反対するなどけしからん」という論旨でした。
官僚の抵抗や社会の反対で公約が実施できないなら別ですが、「議員定数80名削減」など第一公約で約束して、国会だけで議決できるものもやらないのですから、「ウソと詐欺」といって良い状態なのですが、この社説によると「ウソと詐欺」が現実なのだから、その現実を踏まえて「ウソと詐欺」を「正しい」としようという訳です。
実は、これまでも新聞の社説を読んでいると、「ご都合主義」というか、「超現実主義」というか、人を裏切ろうと、何をしようとその時にもっとも現実的で自分が得をするものなら何でも良いという考え方です。
新聞は「新聞などについては社会的意義が大きいので減免措置が必要」と財務省と合意している。まさに「声が大きいものだけが得をする」というこれもご都合主義の主張でした。
子供に教育できないようなことが社会の主流の意見になる・・・日本の知性が崩壊していくことを新聞の社説が主導するということをやってはいけないと考えます。
「tdyno.168-(6:41).mp3」をダウンロード
(平成24年6月30日)
武田邦彦
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