アイファガン点眼液が起こした奇跡。
薬に罪はないのに、日本の厚労省のシーラカンスの様な動きの遅さによる絶望的なドラッグラグ(本国アメリカから発売16年遅れ)、更に保険診療上の縛り(ファーストラインとして最初に処方することが出来ない)、トドメにプロモーション力が圧倒的に足りない業界下位の弱小メーカーである千寿製薬からの販売という、 「3重の地獄の苦難」を背負っての2012年の「ひっそりとした」静か過ぎる日本発売となったアイファガン点眼液。 またこれは完全な裏が取れているわけではない噂レベルの話ではあるのですが、複数の業界筋によると、このアイファガン点眼液の日本販売権に関しては、「アメリカ発売から16年も遅れて、更にめんどくさい1日2回点眼の古い薬なんて、どうせ今更大して売れないよ。」と製薬業界内で嫌がられてたらい回しにされ、それで最終的に弱小メーカーの千寿製薬に販売権が回ってきたという説もあります。(笑) そしてこのように、業界内の誰にも、何だったらもしかすると販売元の千寿製薬にさえも大して期待されないまま (笑) 静かに日本発売後6年が経過した今年、その「突出したガチンコ力の高さ」によって多くの並みいる競合薬を抑えて緑内障薬売上ランキングのトップに立ちました。これはまさに、 アイファガン点眼液が起こした奇跡 です。 今日は、どうして3重苦を背負った、並みの平凡な薬であったならばひっそりとそのまま息絶える運命だったアイファガンが「6年越しの奇跡」を起こせたのかについて、眼科専門医であり同時に発売時から熱狂的なアイファガンファンでもあり続けたこの私が、その秘密をついに語りましょう。 アイファガンの凄い所は以下の通りです。1. 副作用が少なくて効き目が強い。 はい、アイファガンの長所を一言で言えばこうなります。お薬と言うのは全てリスク(副作用)とリターン(作用・効き目)があるわけですが、このアイファガンはそのバランスが抜群にいいのです。 例えば、現在緑内障の点眼治療ではファーストラインとしてプロスタグランジン関連薬 が使われています。これらのお薬は眼圧を下げる力は本当に強くて、だからこそファーストラインなのですが、その一方で多くの特に「局所」の副作用があります。具体的には点眼後の強い充血、更に点眼を目の周りにこぼすと、そこが黒くなったり、くぼんだり、しまいに毛が生えたりします。中には逆にこの副作用を狙って、使い終わって余った使用期限切れの目薬を頭皮にゴシゴシ塗り込んでいるおじいさんさえいたりします。(専門的にはこの副作用はDUES:デューズという名前で呼ばれています。) またプロスタグランジン関連薬に次ぐセカンドラインの位置づけのベータブロッカー点眼剤(製品名でいうとチモプトールやミケラン)は、喘息・コントロール不良の心臓病・閉そく性の肺疾患がある患者様には禁忌で処方することが出来ません。ただ緑内障の方には高齢者が多く、自分で自分の持病を完全に把握できていない場合もあり、この系統の点眼薬の処方は医師・患者様の両方にとって大きなリスク要因となります。 更にセカンド/サードラインとして良く用いられる炭酸脱水酵素阻害剤点眼薬は、ペーハーの関係で強烈に目に沁みたり(製品名トルソプト)、沁みなくても目薬が白い濁り液で点眼後しばらくめがかすんで見えなくなるので、元々目に関して色々な不安を感じている緑内障の患者様にとっては気持ち的に沈んでしまって点しにくい、ついつい点眼をさぼりやすい(製品名エイゾプト)ものだったりします。 つまり、 緑内障の目薬と言うのはどれもそれなりの欠点があって気難しいものが多い のです。ところがアイファガンは非常に点し心地が良く(これ、凄い美点)、更に眼圧も良く下がる(ほぼセカンドラインのチモプトールと同等)のです。なので、患者様に一度処方すると、「先生、今度の目薬、点しやすいし眼圧下がるし、滅茶苦茶いいわあ。」と喜ばれることが多いのです。そして患者様が嬉しいと私達医者も嬉しいのです。何故なら、我々は患者様の「役に立つ」ことが最大の喜びであり、それをモチベーションとして毎日の外来診療を頑張っているからです。 これでもうお分かりですね。 アイファガンがベストセラーとなったのは、患者様に強く求められるお薬であったから。そこに「幸せの、喜びの連鎖」があったから。 なのです。 そしてアイファガン点眼液にはまだ他にも長所があります。2. 防腐剤に工夫があり、角膜障害が少ない。 緑内障の目薬と言うのは大なり小なり角膜(黒目)へのダメージがあります。そして防腐剤として、安価で一般的なベンザルコニウム塩化物(通称 エンベコ)が入っている目薬では、そのダメージが更に増強されます。ここでは具体的には書きませんが、多くの緑内障点眼薬はエンベコを使用しており、特に海外メーカーのものはその濃度もべっとりと非常に高い場合があります。ただ欧米の方はあまり角膜障害を気にされないようなのですが、日本人と言うのは「世界一消費者意識が高くてとても繊細」なので非常に気にされます。 そしてアイファガンは、Purite(亜塩素酸ナトリウム)という、非常に角膜に優しくて安全な防腐剤を使用しており、長期使用に不安が少ないところも大きな美点なのです。 この2点がアイファガンの凄い所なんですね。 ただこのアイファガンにも少ないながら欠点はあります。それは、 点眼後数か月が経過すると結膜(赤目)にアレルギーを起こしてくる場合が一定の確率である ことです。この副作用が出た場合には、違う系統の薬に切り替えることになります。 さて長くなりましたが、以上をまとめると、 アイファガンは売れるべくして売れた ということです。 緑内障点眼薬の中で「総合力が断トツトップ」であり、それが口コミで広がってついに6年経って1位になった ということですね。 これからも名薬アイファガンと共に、緑内障患者様1人1人の眼の状態に合わせた「オーダーメイド治療」に精進していきたいと考えています。