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人間仁科のブログ・八重山見聞録外伝

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2008.02.27
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カテゴリ:時事ネタ

海の事故に限らぬ話であるのは勿論だが、事故には必ず原因がある。原因のない事故はありえない。あればそれは超常現象ってことであり、当ブログでは超常現象を扱うつもりはまったくないので原因ある事故が今節の前提である。

斯く言う私も又海難事故を起こしたことがある。正確に言うなら私自身が起こしたわけではなくて【私の責任の下で起きた事故】ということになる。

当時、私は離島便高速船の船長であり、その日は相方の船長が急遽欠勤となり私一人で終日三便の舵を持つ筈であったが、出航寸前になって社長が人を連れてきた。社長の従兄弟だという。彼は小型1級船舶の免許を持ち、以前に他の海運会社で高速船の勤務経験があるとの事で、社長の推しで1日だけの臨時船員として船に乗せることになった。私は見知らぬ他人と組んで高速船を運航することに少なからず戸惑いがあったが、一人きりですべての業務をこなすにも多少の無理がないわけでもなく、私は社長の従兄弟が乗船することを承諾同意したのである。天候は快晴。波も穏やかで気持ちのよい朝だった。

一便往路は私が舵を持ち、何事もなく、いつも通りに波照間島へと着いた。海難事故が起きたのは復路、石垣島を間近に見ての竹富島の南側を走っていた時だった。

復路、走りだしてからずっと舵を持つ私に社長の従兄弟が執拗に懇願してきた。
航路は熟知してるのだから俺に舵を持たせろと。
俺のほうがベテランなのだから大丈夫だと。
彼は私より幾つか年上だったし、勤める会社の社長の近しい親族である。私は断りきれず、舵を渡した。では、お願いしますと頭を下げて。

彼は能弁な人だった。つまり、おしゃべりな男だったのだ。私は見張りとして舵を持つ彼の隣に立っていたのだが、彼は私に話し掛けている間時折しか前を見ず、心配になった私は何度か彼に注意を促しもした。「大丈夫ですか。俺のほう見なくいいから前見てて下さいね。ベテランでもちゃんと前見ないと危ないですよ」
でも彼は笑うだけだった。

そうして竹富島の南側へさしかかる。そこは立標(水深の浅い航路に目印として立っている柱)の両側に航行可能な水深の航路があり、立標南側には充分な航路幅があるのだ北側には船一隻がやっと通れるほどの幅しかない。見れば、舵を持つ従兄弟はどう見積もっても立標北側を回ろうとしていた。
「大丈夫ですか。北側は狭いでしょう。どうしてまた北側…」
「大丈夫!いつも北側通ってるんだから平気だよ。大丈夫だって」
そして又関係のないおしゃべりを始め、私のほうをしきりと覗き込む。ねぇ聞いてる?聞いてる?俺の言ってることちゃんと聞いてる?面白いでしょ、この話?まさにそんな風情なのだ。

立標がどんどん近づき、喋り続ける彼はなぜか舵をゆるやかに切り始めるから私は焦った。立標間際で急に船首の向きを変え出したのである。「北、回るのやめたんですか!南側通るんですね!」
でも彼はその問いかけに返事もせず、ひたすら自分の話を続けた。横に立つ私のほうをしきりと覗き込むが私は立標を睨む。直前で舵を切って旋回しているから船尾は流れ気味となり、遠心力が向う先に立標が立っているのだ。でもぎりぎり交わせるかも知れない。私はもう一度確認した。
「立標、交わせますか?やばくないですか?大丈夫ですか?」矢継ぎ早にそう尋ねる私に彼が無反応になったのがわかった。それで私は決断したのである。「後進かけますっ!」

つまりブレーキを掛けたのだ。
立標寸前で船は止まったが惰力までは消すに至らず、歩くようなスピードではあったが船体は立標が立つ岩礁の上へと乗り上げた。そう。そのときは干潮時だった。それも大潮の。
要するに最も海が浅くなる日時なのであり、海難事故が多発する条件だったのであるが、明らかにこれは人災だ。ここに書き出した描写の中からだけでも幾つかの人災要件は探し出せるだろうし、実際には事故原因につながる要因を更にあげつらうことだって可能である。

もし私が制動をかけなければ、もしかしたら船はぎりぎりのところで立標を交わせたかも知れない。でもやはり、流れた船尾が立標に激突しその衝撃で怪我人が出たかも知れないし、船底が破損し浸水して船が沈んだかも知れない。事故が起きる起きないの可能性は50:50だったと思う。もしかしたら70:30で事故が起きない可能性のほうが高かったかも知れない。

だが、実際の総重量が30トンの高速船を乗客を乗せて60km/hで走らせるには50:50では駄目なのだ。現実の物事に100%を望むのはフィクションであるが、98%や99%でなければ絶対にやるべきではないのだ。離島便高速船の船長は冒険家ではない。私は、だから制動をかけたのである。

この手で舵を持っていたわけではなかったが、船長である私が事故の責任をとらねばならなかった。幸い一人の怪我人も出さずに済んだものの私はこの事故の責任を取る形で船を下りた。

事故はいつも起こるべくして起こるのである。青天の霹靂みたいにして誰も悪くないのに運悪く起こるわけではない。海上自衛隊の諸君が今回起こした事故も同様だ。「あんたら、そりゃあ事故るワ」ってな風景がそこにあったことは推察するに余りあるって次第だ。そしてもし連中が事故を起こす可能性にさえ思い至らずあの日あの時を迎えていたなら馬鹿阿呆無能まぬけ以外に表現すべき言葉を私は知らない。








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Last updated  2008.02.27 17:48:53
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