|
カテゴリ:カテゴリ未分類
ぼくは、涙をぬぐった。
今、起きていたことは、現実なのだろうかと、霧の中にいるような頭で、そう思った。 あまりにも突然、予期しなかったことが起こったからだ。 野島さんのことを思い出していて、その延長線上に北くんが出てきたのだけど。 まさか、本当に北くんが現れるなんて思いもしなかった。こんな所に、こんな形で。 でもあれは、紛れもなく、北くんだった。 野島さんが北くんのいじめに遭い、どんなに苦しんだか。 今になって、ぼくは分かる。 仲の良かった周りの女子にさえ見放されてしまっていた。無視されていた。助けたら最後、自分 がターゲットになってしまうからだ。 無視するのは、いじめに加担していることと同じなのではないかと、身震いした。ぼくだって、 加担していたことになる! また、涙が溢れた。 ぼくは、野島さんに謝りたい。 ぼくは、その頃のことをまざまざと思い出していた。 何故、ぼくは野島さんを助けなかったのだろう。あの頃のぼくに、とても腹がたつ。許しがたい。 とても、後悔している。 悔しいけどぼくには、心の余裕がなかったのだ。 北くんのいじめは、とても陰湿だった。 一人ではやらず、必ず仲間を作り、巻き込んでやるのだ。その仲間一人一人に、単独でやらせたり もするから、いじめられる子は、絶えず誰かにやられているのだ。 卑怯なやり方だった。 上履きの、つま先の方に画鋲を入れておくのなどは、まだ良い方だった。一度やられたら、二度目 には気をつけるからだ。 でも、不意をつくやりかたが一番ダメージを受けるのだ。 人間としての誇りをズタズタにされてしまう。立ち上がれなくなるのだ。 ぼくは、それを分かっていたのに、いじめに対して何もしなかった!ぼくの感覚は、麻痺していた のだ!自分の苦しみで。 ぼくは、あの頃、死にたくなるほど苦しい日々を送っていた。 北くんは、ぼくへのいじめもやったけど、ぼくはそんなことに構っていられなかった。 ぼくは、父さんが突然亡くなってショックだったのに、その後、母さんが実の母さんじゃないこと を知った!数年後、今度は母さんが、ぼくと耕ちゃんを連れて再婚することになった。 再婚のことは、おじいちゃんが応援したけど、ぼくは、母さんが許せなかった。 あんなに愛してた父さんを忘れて、他の人と結婚するなんて! ぼくは、悩み、苦しんでいて、北くんのいじめに反応できなかった。他の人へのいじめに対しても。 北くんをとても嫌な奴だとは、思っていたけど。 あの頃の北くんを考えると、今、泣き喚く姿を見たからと言って、ぼくは自分の心を動かされた りしない。 酷いことをしてきたのだから。自業自得だと、思う。 でも、何故母さんを嫌っているのだろう。あんなに愛されていて、何よりも実の母さんなのに! あの小母さんは、死に物狂いで自分の息子を守っていた。 自分がどう思われようと、がむしゃらな人だった。 授業参観の日も、授業中なのに遮って、牧野先生に、クレームを入れたりしていた。 北くんは、それだけは、嫌だと思っていたらしいけど。 でも、ぼくは、とても羨ましいと思っていた。 愛してくれる、本当の母さんなんだから。 例え、過保護でも、溺愛でも。 翌日、登校しても、イケは来なかった。 どうしてるんだろう、まったく。 ぼくは、登校してきた北くんを見た。何事もなかったような顔をしている。 その表情から、何か読み取れるものがないか、ぼくは注視した。 北くんは、そんなぼくを見るなり、ちッっと舌打ちをした。 ぼくを避けるように、古松くんや羽矢崎くんと合流して、教室から出て行った。 仲間がいると言うことは、苦しいことがあっても、誤魔化せるんだと、ぼくは思った。 つづく 、 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|