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Feb 22, 2011
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「見たんだ、ぼくは」
 
 ごり押しされながら、ぼくはどう言えば的を射ているのかを考えていた。みんなの前で言わなく

ても、北くんにだけ、ぐさりと矢が刺さるように。

「だから、何を見たんだよ!見たことを言ってみろよォ。むかつくぜッ。

いい気になりやがって!何にも見てもいないくせして、よ!」

 北くんは、強がっている。

「北くん、その前に、ぼくに言うことがあるはずだよ!足を引っ掛けてきたじゃないか。

今までだって、一度や二度じゃない!何度もだよッ。今まで一度だって謝られたことないから。

ちゃんと謝ったら、言うよ。ぼくは、見てるんだから、間違いなく、ね!こんな所でと、いう所で

北くんを見たんだからね」

 今度は、北くが狼狽する番だった。目が右に左に、忙しなく動いた。明らかに動揺している。

 泣きながら自転車を飛ばして、林の一本道に消えていった北くんをぼくは、まざまざと、思い出

していた。

北くんも、きっとあの時のことを思い返している。誰にも見られていなかったはずだと。

誰にも会わなかったはずだと。

それに力を得たかのように、立て直して向かってきた。

「謝れ?わざとやった訳じゃないのに、謝れぇ?バカにすんなよなッ。いい気になりやがって」

「いつだって、わざとやってるだろッ。誤魔化そうたって、そうはいかないからね!」

「偉そうにしやがって。オレはわざとやった訳じゃねー。謝る必要なんかないねッ」

「それなら、ぼくだって、言う必要ないよ」

「お前の見たことなんか、聞きたくもねー。見た見たって、どーせ、くだらないことだろッ」

「くだらないことなんかじゃ、ないよ。大事なことだよ。北くんの胸に手を当ててみろよ。分かる

ハズだよね。聞きたかったら、ぼくのところに、一人で来なよッ」

「お前、何様のつもりだよ。脅迫する気かよ」

「脅迫なんかしてないよ。何言ってんだよ。誰にだって、悲しいことや苦しいことなんかあるんだ

よ。それに負け、」

 まだ話してるぼくを、斜めに睨みつけて、北くんは仲間と一緒に、机を蹴って出て行った。

「勝手なこと、ほざきやがって」

 と、吠えながら。

ぼくは、どさっと椅子に、座り込んだ。左手が痛くなっていた。

気がつかないうちに、もくっと腫れている。 

 しーんと静まり返っているみんなの中を通って、ぼくは保健室に駆け込んだ。

保健の先生が手早く、冷やして、三角巾で腕をつってくれた。

なるべく動かさないように安静にするようにと言った。

骨折はしてないようだけど、家の人と病院に行くようにとも。

 牧野先生が、息を切らしてとんで来た。

先生は、授業を自習にして、ぼくを家まで車で送ってくれた。

「北くんに、足を引っ掛けられて、転びそうになって手をついて。こんなことになっちゃったん

です。やられるの分かってて、油断しちゃったから」

 ぼくは、車の中で、正直に話した。

「そう、また北くんなのね。

川を綺麗にする話、早く進めなくっちゃね。

川の持ち主の住所、漸く分かったんだよ。捜した捜した。やっと分かったんだよ。

今度の日曜日、何とか都合をつけて、了解を得に行ってくるからね。もう少し待ってて」

 先生は、そう言ってから、

「痛む?」

 と、ぼくに訊いた。

「我慢できないほどじゃないから、大丈夫」

「そう?腕は、なるべくさげないようにしてね。それから、あんまり動かさないこと。

もう、北くんには、こんなことさせないからね。ごめんね、池永くん。北くんも、いろいろある

から。許してあげてね?」

 ぼくは、黙って頷いた。


 その夜、ぼくは目が冴えて眠れなかった。
 
おじいちゃんは、ぼくを病院に連れて行って疲れたみたいだ。病院で、嫌になるほど待たされた

りもしたから。

ぐっすり眠っている。

 ぼくは、イケのことを考えていた。

イケの左手は、どうなったんだろう。ぼくは、気にしていなかった。まるで、あの後のことを知ら

ないのだ。

ぼくは、左手の自由を奪われて、はじめてイケの手のことを思った。

イケはあの時、病院へは行かなかったと思う。

病院へ行かずに治したのだろうか。冷やさなければいけなかったのに、そうは、しなかったのでは

ないだろうか。

ぼくは、今すぐにでも、イケの手がどうなっているのか知りたかった。

真夜中を走り抜けて訪ねて行き、大丈夫かって、訊きたかった。

イケは、当てにならない父さんに、きっと、なんにも話さなかったのではないだろうか。

イケは、一人でどうやって、治療したのだろう。

 ぼくは、おじいちゃんに守られている。

でも、イケは。

 ぼくは、布団を被って泣いてしまった。

イケ、ごめん!手は、まだ痛む?大丈夫?

                                 つづく 
 

 
 
 

 









 







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Last updated  Feb 22, 2011 05:26:03 PM
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