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ラッブ・フォー・ラブ 廣龍
梅雨の前にキンメツゲの生け垣が一気に背を高くした。枝は思い思いの方向に伸びていて、あちこちに、周囲に気を配ることのない徒長枝が我先にといわんばかりに伸び出している。昨年は剪定されたらしく、一応は上辺も側面も揃っていたが、今年は鋏を入れる家人もいないらしい。静代は不揃いの生け垣の上から頭を出した夾竹桃の薄い桃色の花を左手に見ながら急ぎ足で歩いていた。気が焦ったような歩き方は犬にでも覚られるようである。足音を聞きつけた向かいの家の犬が板塀に駆け寄り、ガサガサと忙しなく引っ掻きながら吠え始めた。振り向きながら、犬の吠える方をチラッと見てまた急ぎ足になった。玄関の開く音がした。静代が門柱の所へ着くと、淑恵は門柱から五間ほど奥まった所の玄関で硝子戸を閉めていた。 ――あらっ、今から病院へ行くのかしら? 御影の板石を敷き詰めた延べ段を玄関に歩きながら、淑恵の背中に向けて声をかけた。「今から病院?」 淑恵はビクッと肩を震わせて、振り向いた。 「あらっ姉さん……」 「何驚いてるのよ」 淑恵は僅かに高い声で、 「驚いてなんか無いわよ。やーねっ。姉さんこそどうしたの、今日は?」 「華菜から聞かなかった? 今日、私が来るって……。この前の話を聞きに来たのよ、華菜に。うちの人も早く華菜の気持ちを聞きたいと言うから……。あんたからもちゃんと言ってくれたわよね。華菜いるでしょう?」 「華菜は病院よ」 「病院って達也さんのところ?」 淑恵は眼を眇め、声を荒げて答えた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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