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ラッブ・フォー・ラブ その2 廣龍
「そーよっ」 「なんで華菜が病院よ? 一昨日の電話では『日曜日は家にいる』って言ってたわよ」 「今日は句会だから、昨日と今日を代わって貰ったのよ」 苛立って眦をあげた淑恵の声が尖った。 「しっかり者の娘は父親の看病で気楽な母親はお洒落して句会とやらに……って」 「姉さん、嫌味言ってるの? 私、時間がないから行くわよ。家に入るんだったら、はい、これ、鍵。どうせ、病院へ行くんでしょう?鍵はしっかり者の娘に渡しておいてちょうだい……。後でその娘からから貰うから」 「これは、これは。ご親切にどうも……」 「あんたはどうなのよ? この前の話は」 「私より華菜の気持ちを聞いてちょうだい、先に……。そっちの方が大事でしょう」 「あらそう。貴方は承知って事ね!」 「じゃなくて、華菜の気持ちが大事だって事を言ってるのよ!」 淑恵は鍵を静代の手に叩きつけるように渡すと頑なに前だけを向いて歩き始めた。 ――娘の養子縁組の話より、句会とやらが大事なようね、淑恵さん。どんな句会だか……。 まさか丘比古さんとかおっしゃる方とお二人だけで……、じゃないでしょうね。 静代は玄関の硝子戸を引き開けた。廊下にはスリッパが見あたらなかった。 ――おやおや、スリッパがないなんて。 居間に続く廊下を歩きながら、静代はストッキングを通して板張りの上の埃を感じていた。 ――看病で忙しくても家の中くらい掃除してなくちゃ……。おやおや。部屋の中が何だかくすんじゃってる。ほこりっ……? 台所も心なしか雑然としている。何処がどうというわけでは無いが、常時は使用しない食器がテーブルの上に残してあったり、常時は水屋の上に片づけてあるパーコレーターがテーブルの上に置いてある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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