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連載小説 ラッブ・フォー・ラブ その5 廣龍
――大荷物になっちゃったわね。駅までタクシーで行かなきゃ、重たくてかわないわ、こりゃ。 食事を詰めた大きな籐のバスケットを横に置いて門柱の所に立っていると先程の犬が又吠え始めた。先程の忙しない吠え方と違い、遠吠えをするように長く伸ばして鳴いている。 タクシーが門の所に止まった。嫌な声の遠吠えがピタリと止んだ。 ――自分の主人が帰ってきたと勘違いしたのかしら。 籐のバスケットを重そうに抱え上げていると、白手袋の柔和な笑顔の運転手が下りてきて、「私に貸して下さい……」と言ってバスケットを後部座席の奥へ積み込んだ。 「どちらまで?」 「近くて済みませんが駅までお願いします」 「承知致しました」 タクシーが駅に着くと運転手は車から降りて改札口までバスケットを運んでくれた。 最近、この駅は改札口の階からホームまでエスカレーターになった。重い荷物を持っているときには本当に助かる。 ――達也さんが車椅子にでもなったら、どうするのかしら。身障者にはこのエスカレーターは無理だし、エレベーターでもあるのかしら。なんにしても達也さんの意識がしっかりするのが先だけど……、淑恵があの調子だし。車椅子でも良いから元気になって貰わないと私としても気が引けるわ。 駅から乗ったタクシーで病院の玄関に着いた。運転手は金を受け取るとモソモソと財布を仕舞っている静代をジロリと眺めた。荷物を降ろす手伝いなどしてくれそうにもない。静代は一旦車を降り、頭を突っ込んで荷物を引きずり出した。それを見た運転手は後部ドアを閉め急発進していなくなった。静代は溜息をついて、バスケットを抱え上げた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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