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連載小説 ラッブ・フォー・ラブ その6 廣龍
――病室まで遠いわね……。華菜、呼んじゃおうかしら……。 静代はモタモタと歩き始めた。 ――スーパーの買い物カートみたいなの無いかしら? あるわきゃないわね。それにしてもなんと重たいことか……。 白いリノリューム張りの廊下が延々と続く。廊下の一番奥に来て、病棟の受付がある。 その横のエレベーターに乗って六階へ登った。下りたところにナース・ステーションがある。ナース・ステーションに接しているエリアに達也みたいな重篤患者の部屋がある。 病室の引き戸を開ける。音で人が入ってくるのを感じた華菜が、 「ちょっと待って下さい。今、身体を拭いていますので……」 病室を二分しているカーテンの奥から声をかけてきた。 「私よ。予定より早く着いたみたい」 「あら伯母さん。早かったわね。ちょっと臭いがするんで拭いたけど、落ちない匂いもあるみたい。汗の臭いでもないし、垢の臭いでも無いみたい。汗も垢も落ちたと思うけど。病人独特の匂いね」 「あら感心ね。お父さんも喜んでるでしょう。孝行娘になってくれたって」 華菜は口を歪め、照れ臭いのか、、 「そんなんじゃ、ないけどさ。特別な事をしてるわけじゃいし。病気で動けない父親の面倒を見ているだけでしょう……。パパだって、ママが言ってるように家の事は見向きもしなかったんじゃないもの……」 「そうね。そうだったよね……。まっ、良いじゃない。お腹すいたでしょう。身体、拭いちまったんだったんでしょう? 片づけて、お昼食べようよ」 静代はドアを閉めて、病室の中を仕切るカーテンを開けた。 「誰かに見られてない? さっきから他人の視線を感じるんだけど。見られてどうと言う事はないけど……」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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