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2009年01月22日
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連載小説  ラッブ・フォー・ラブ  その11   廣龍

「伯母ちゃん!」
「蛾よっ、蛾。後っ!」  
振り返って壁を見た華菜が座ったまま、声も出さずに横倒しに倒れた。
 白い壁に張り付いた蛾は異様に大きかった。両翅を広げた姿は十五センチくらい在った。両方の翅のそれぞれの中心に丸く見える黒い模様がある。まるで人の両の瞳で見られているような気がする。蛾が両翅をゆらりと動かした。黒い丸が僅かに形を変える。まるで顔を顰めた時のように見える。
「華菜っ! 誰かに見られてた感じ、あの蛾よっ。 翅の模様だって人の顔みたいだし」 
「伯母ちゃん、伯母ちゃん、あの蛾、追い払っちゃわない。ちょっと気持ち悪い……」
――気持ち悪いったって。あんな大きな蛾をどうするのよ。
「ねぇ伯母ちゃん、どうにかしようよ。気持ち悪い」
「気持ち悪いって、はたき落とすって訳にもいかないでしょう。はたいたら鱗粉がぱーっと飛んじゃうわよ」
「じゃ、どうするのよ!」
「窓っ、開けちゃいなさい、早く。あの蛾の所為でもないだろうけど、頭がボーッとしてきたわ」静代は頭を振った。
 蛾を包んでいる空気が霞んでいく。蛾は両の翅を震わせている。鱗粉が翅の振動で空気に滲みだしていく。
「華菜ーっ、拙いわ、こりゃーあ。蛾が翅震わせる時は鱗粉と一緒に超音波を出してんだとさ。拙いわ、こりゃ」
「だから、何が拙いの……」
「雄蛾が雌に交尾を迫るときにこの超音波を出すんだって、なんかの本で読んだわ」
「だから何なのよ。私達がこの蛾に犯されるっちゅうの! 馬鹿々々しい」
「ちょっと、私、看護師さん呼んでくるわ」
「伯母ちゃん、変なこと、言わないのよ! ちょっと、私も行く。まってよ!」

挿絵11





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Last updated  2009年01月22日 23時24分09秒
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