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カテゴリ:イタリア映画
私は小学生の頃には既に「スクリーン」や「ロードショー」と言った映画雑誌を読んでいたのですが、その頃この『ベニスに死す』はとっても興味のある映画でした。タジオを演じるビョルン・アンドレセンがすごい美少年と言う事で非常に話題を呼んでいたのです。ただ私はこの映画を観ることなく今まで来てしまったわけですが。 20世紀初頭のヴェニス。ここへ静養の為に訪れたドイツ人作曲家のアシェンバッハは、途中不愉快な思いをしながらやっとリドのホテルへと着いた。静かな所と思っていたが、実はバカンスの客で賑わっていてちっとも落ち着かない。部屋は海の見える静かな部屋だった。一息ついてラウンジに下りた彼はある家族に目が行く。母親と3人の娘、家庭教師。そしてその傍らに座る1人の美少年タジオに目が奪われる。それ以来完全にタジオの虜となったアシェンバッハは、知らず知らずのうちにタジオを目で追い、彼の後を追って街を彷徨う。 トーマス・マンの短編小説の映画化ですが、小説での主人公初老の男性は小説家だそうです。しかし、当初の計画は音楽家だったそうで、これを映画化する際ヴィスコンティは最初の計画の通り音楽家にしたのだそうです。マーラーがモデルではないかと言われています。だからでしょうか、タイトルロールでも出てきますが、全編にマーラーの美しい音楽が奏でられます。 私の場合、これは公開当時、又はそれ以降でも10代の頃観ていたら、おそらく気持ち悪いとか、意味がわからなくて「面白くない映画」で済んでいたんじゃないかと思います。ただ、アシェンバッハが友人と芸術論を戦わせるシーンは、今観ても意味がわかりませんが。 台詞が極端に少ない映画です。全てアシェンバッハの目線で進められ、ホテルやビーチを行き交う人々を彼の人間ウォッチングのように描かれていきます。そのウォッチングの最中、ハッと目を奪われた美少年。そこから彼の行動は自分でも気付かないうちにおかしく(?)なっていくのですが、その美少年タジオを演じたビョルン・アンドレセン。子供の頃映画雑誌を読んでいた頃には、「そんなに美しいか?」と思っていて、この映画を観るまでずうっとそれは疑問だったのですが、いやあ~、美しかった!透き通るように白い肌、美しい髪の毛、完璧な肢体、まるでギリシャ彫刻のようです。美少女と言ってもいいくらい中性的な魅力を持った、これぞこの映画にピッタリの少年です。随分と時間をかけて彼を見つけたと聞きましたが、残念ながら彼は映画はこの1本だけしか出演していません。 彼の台詞も極めて少ないのですが、アシェンバッハをじっと見つめかすかに微笑むその妖しさは演技なのかもしれませんが、天性なのかも、とも思うのです。 まさにヴィスコンティの美への追求とアンドレセンの美しさがこの作品の要なのでしょうが、アシェンバッハの複雑な心理をボガードが実に巧く演じていて、彼の表情ひとつでその心理が手に取るようにわかります。怪演と言ってもいいかもしれません。 私はこのタジオが天使のように美しい少年と言うよりも、アシェンバッハにはむしろ死への使いのような気がしてならなかったのです。彼に出会わなければ、アシェンバッハはあれほどヴェニスに残る事を善しとはしなかったと思うのですが。アシェンバッハの心を知ってか知らないでか(知っていたと思いますが)、挑発的にも見えるタジオの微笑みは罪です。ラストの方、タジオが浅瀬で指差したポーズは何を意味するのでしょうか? 化粧をしたアシェンバッハはかえって醜く、染め粉が顔を伝って流れる様は哀れです。 ホモセクシャルの話と言うよりも、老いと若さ、死と生、アシェンバッハが失くしたもの、もう到底手の届かないものが全て自分との対極にあったタジオへの強烈な憧れを描いた作品、と言う方が納得が行く気がします。 マリサ・べレンソンが出ていたのですね。すごく久しぶりに観ました。 MORTE A VENEZIA / DEATH IN VENICE 1971年 イタリア/フランス 監督:ルキノ・ヴィスコンティ 脚本:ルキノ・ヴィスコンティ、二コラ・バダルッコ 原作:トーマス・マン 出演:ダーク・ボガード、ビョルン・アンドレセン、シルヴァーナ・マンガーノ、マリサ・べレンソン、マーク・バーンズ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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