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乳癌は早期発見も早期治療もいらない

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2012年06月15日
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カテゴリ:牛乳・乳製品
昨日の記事、乳糖不耐症(?)の続編です。

第1回:乳糖不耐症そしてラクターゼ持続症

みなさん牛乳は好きだろうか。あまり好きでない、という方が多いのではと思います。日本人成人の多くは牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を腸で分解できません。そのため下痢などおなかの調子が悪くなる人が多いです、少量なら飲んでも下痢はおこさないことが多く、なんとなく牛乳は好きでないという方が多いのではないでしょうか。そのような状態は乳糖不耐症という名前でよばれています。後ほど述べますが決して病気ではなく、こちらが正常ともいえます。ところが、牛乳を飲んでも平気な人もいます。牧畜の歴史が長い西洋人などで乳糖不耐症の頻度は少なく10-30%程度です。
乳糖不耐症は牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解する酵素、ラクターゼ、が少なくなっているためにおこります。乳糖は2糖類で、単糖類であるガラクトースとグルコースで構成されています。乳糖は小腸に存在するラクターゼによりガラクトースとグルコースに加水分解されます。当然ながら、乳児の主な栄養源は母乳であり、母乳の主要糖質はラクトースです。また新鮮な乳はバクテリアがおらず安全な飲みものでもあります。哺乳類のすべての乳児はラクターゼで乳糖を分解します。乳児で急速に発達する脳の発育にガラクトースが必要といわれています。成人ではガラクトースはグルコースから肝臓で生成できるようになり、摂取する必要はなくなります。乳児においては乳糖の分解は必須ですが、成人では必要ない、ということとなり多くのほ乳類は成長とともにラクターゼ遺伝子のスイッチを切るような仕組みができ、ラクターゼを作らなくなります。プロモーター領域に特定の転写因子OCT1、 が結合しなくなることが実験的に示されています。ただ、成長に伴うスイッチオン・オフのメカニズムはまだわかっていないようです。ヒトでは離乳とともに活性低下がおこり12-3歳になると乳糖を分解できなくなります。その代わりといってはなんですが、乳糖をバクテリアで発酵分解させてチーズにしたり、乳酸菌で分解してヨーグルトにすると大人でも消化できます。必要ない酵素はシャットダウンした方が生存に対してコストがかからないのだろう。ところが、である。ヨーロッパ人では成人になってもラクターゼ活性を有する人が多数を占めます。スイッチがオンになったままなのです。乳糖を分解できないこと、分解できるようになったこと、どちらも進化的に考えると面白いことがわかります。

まず、そもそもなぜ成長するに伴い乳糖分解能を失うのだろうか、生まれたばかりの子どもにとって母乳が唯一の栄養源です。かつ、いつまでも母乳に甘えたい。母親からすると母乳で育てている間は月経が始まらず次の子供を宿れません。ここにある意味、母子間で利益相反が生じています、生物学的葛藤があるわけです。そこで、ある時期になるとラクトース発現を抑え、乳糖を分解できないため母乳を飲むと気分悪くなるようなメカニズムが働き離乳を促すようプログラムされています。そして、親が食べているものと同様、固形物を食べるようになります。これはすべてのほ乳類が有する基本メカニズムです。そういうことなので、乳糖不耐症という名前は適切とはいえません。生物学的にはこちらの方が正常なのですから。成人になっても乳糖を分解できるタイプをラクターゼ持続症 (lactase persistence) といいます。牧畜の始まりは農業と同じくほぼ1万年前とされます。我々の祖先は狩りしているうちに、偶蹄目が家畜化できることを知ります、そして遊牧を始めるようになりました。そのうちに牧畜が始まり牛やヤギから乳を摂取するようになった。農業と違い、移動しながらでも食料、それも非常に栄養価の高い、の安定確保ができる牛などの家畜化は人口増加を伴い広がっていった。牧畜民にとって乳を飲む事は生存にためにも重要であったに違いありません。ラクターゼ持続症をひきおこす遺伝子変異は同定されています。ラクターゼ遺伝子の14k塩基もの上流、エンハンサー領域に存在する変異で、ヨーロッパ人では-13910番目の塩基がCからTへ変化しています。変異がおこったのはおおよそ7000年前と推定されており、北アフリカの牧畜民でも同じ変異が見つかっているので起源は北アフリカとされます。その後急速に広まり、ヨーロッパではこの変異を持つ人たちが大多数となったのでしょう。7000年前ですからざっと350世代前です。自然選択が働くと有利な遺伝子が残るいい例です。サハラ砂漠以南のアフリカ人では同じ領域ながら異なる変異がみられます、 -14010Cです。これらすべての変異は機能的にラクターゼ持続症をおこしうることが実験的に示されています。すなわち、牧畜民の間ではこの変異を有すると生存に有利となり、急速にこの変異が広まったと考えられます。ヨーロッパでひとつの変異しか見つかっていないので、あるグループが遊牧しながら移動した結果が、今のヨーロッパ人の祖先ということとなるでしょう。農耕を主な食料源としたアジア系ではこのどちらの変異も頻度は非常に低く、ラクターゼ持続症も少ないです。一部においてはアジア系でもラクトース持続症は見られ、さらに新たな変異が検出されています。その由来は不明ですが、アジアにおける牧畜民であり、かつてアジアを制覇したモンゴル人に起源を求めてもいいかもしれない、チンギス・ハーンが持ち込んだのかもしれません。とはいえ、アジアにおける起源はまだ明らかにされていません。

乳糖不耐症そしてラクターゼ持続症
http://www.nig.ac.jp/labs/HumGen/inoueColumn_01.php

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(本日2つ目の記事でした。前のも読んでくださいね?)





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最終更新日  2012年06月15日 22時42分43秒
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