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2017.12.09
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カテゴリ:短歌…だと思う

 

美しき老齢.jpg

   Photo by 兵之助さん      

 

               場所がほんの少し離れているから、常連と言うわけではなかった。

               夫が入院していた病院に近いので、毎日行きか帰りのどちらかは、

               たぶん店の前を通っていたはずで、時たま買い物をした。

               自分の通院でも、月に一度は必ず通る商店街。

               その日ずいぶん久しぶりで、一番よく買ったものを買って行こうと思った。

 

               「すみません、ヒレカツの揚げてないのを…」

               「あ、申し訳ございません、もう明日店をたたむので、お出しできないんです」

               「え、あ…そうだったんですか…。そんな…じゃ、何か買っていきます。

               そんな寂しいことを知ったら………メンチカツを…」

               「はい」


               お金を払い、おつりを受け取る。

               「どうぞ、お体に気をつけて」

               「はい。長い間、ありがとうございました」

               「こちらこそ、ありがとうございました」


               常連でもない私が丁寧に頭を下げられ、鼻の奥がつーんとしていたので、

               気の利いたことも言えずそそくさと店を離れた。


               お幾つなんだろう。いつ見ても三角巾をきちっと頭にしばった店先に立つその人は、

               とても美しく年を重ねた女性で、今も充分お綺麗だけど、

               お若い頃はさぞかし…と思わせる人だ。


               思えばこの商店街も、店先を覗けば店番をしているのは高齢者が多い。

               全国的な傾向だろうが、大型店舗や雨後の筍のように増えるコンビニに押されて

               立ち行かなくなったのか、後継者がいないのか、商店街の顔だった昔からの店が、

               ぽつり、またぽつりと歯が抜けるように無くなっていく。


               ここには生きている人間が住んでいるはずなのに、この感覚はなんだろう。

               何かに麻痺していないと生きていられないと思うような、嫌な世の中になった。

               いや、そんなふうにしか感じられなくなった私なんだ、きっと。


               私の中でも、ぽつり、またぽつりと何かの灯は消えているんだろう。

               悲しい時にちゃんと泣いておくのは、大切なんだなとこの頃はよく思う。、く

 

 

★ Mr.Children - 進化論 ★


 






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最終更新日  2017.12.26 05:20:28
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