今年ちょっとしたことがあり数十年ぶりに入院した日、眠れぬ夜に亡夫もこんな思いの夜を 過ごしたんだろうなと、あれこれ考えていた。日常ではない諸々の音に囲まれている、この 心細さとストレス。許可がなければ退院できないという、そんな当たり前のことすらつらい。
彼は、2年間の闘病生活で入退院を繰り返し、長い時間を病院で過ごした。どんなに大変だ ったろうと今さらのように思った。6回入院したうちの5回目だったか6回目の時だったか、 彼が私に早く病院へ来てほしいと電話をしてきた。どうしたの?と訊くと、なんだか私に逢 いたくて、寂しくて仕方ないんだと静かに泣いた。
私の何十倍もつらい思いをした彼。でも…あの人には私がいた。それがどれだけの彼の力に
なったかはわからないけれど、今どんなに寂しくて逢いたくなっても、私には「早く来てほ
しい」と電話をかけられるあの人はいない。それをとうとう病室で思うことになるなんて。
ふと点滴をしていない方の腕を、天井に向かって何の気なしに伸ばし、あっと思った。彼
が大学生の頃、バイトのお金で買ってくれた時計が一緒だったのか。思えば私の持ち物で、 この時計だけがずっと彼の代わりのように、そばで同じ時を刻み続けている。だからこの時 計は、二人が向き合わなかった時間も知っているのだ。
今まで二度修理に出したけれど、もう古い時計なのでこの次壊れたら部品がないかもしれな いと、時計屋さんに言われた。どちらもオンボロだけど、どちらが先に止まるだろう、時計 と私と。 ★ Dead By Sunrise - Give Me Your Name ★
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