あるブログ 1
その人のことを、楽天で使っていたHNから、Aさんとしよう。Aさんの楽天ブログ
はある日突然、管理画面のお気に入りブログの欄から消えた。Yahoo!ブログの引
っ越し先で、過去の記事を読み返していて、ああ、この記事が楽天で最後の記事
だったと思いだした。それが2012年5月。そんなに前だったのか…。
その当時Aさんは、家族のトラブルのさなかだった。ご自身は癌で胃の全摘と他幾つかの臓器を部
分切除した人で、食事が普通に摂れないこともあって、体調は万全ではなかった。にもかかわらず、
次々と起こる問題から家族を守るため、懸命に奮闘していたのだった。
その問題は、家族の健康が絡んでいてどれも長期的なもの。その渦中でドン!!とさらに大きな
出来事が起きる。読んでいると、ああ、私ならもうとうに自分が鬱状態に陥って、身動きが取れ
なくなってるだろうなあと思うのだった。
とても感心することがある。それは彼の才能なんだと思うけど、ノンフィクションの深刻な話で
も、落語でいう「オチ」のようなものが最後にあり、文の組み立て方がとてもうまい。どんなに
深刻な内容でも最後はシリアスに終わらず、できる限りポジティブに考えようと自分に言い聞か
せているかのようで、Aさんの強い意思に感じられた。
Aさんの様子は私には充分辛い状況に映るのに、彼は「自分より辛い思いをしてる人はたくさん
いる」という。卑屈な程へりくだるわけでも、人を煽てて媚びるでもなく、逆に尊大でもなく、
夫として父親としての責任を果たそうと、ひたすらに努力している人なのだった。
楽天ブログは、おそらく事態と心身が大変になってしまい、二つのブログを維持できなくなって
しまったのだと思う。楽天では私の他にコメントを入れ続けていた者はいなかったが、とにかく
記事が面白いので、Yahoo!ブログでは人気者。コメントのやりとりも盛んだった。だがあまりに
も状況が苛酷になってくると、コメントは返しませんと書かれることもあったほど。記事の更新
が滞ることもあり、のちに結石の手術で入院していたとの報告があったりして、彼の境遇は肉体
的なことだけでも本当に大変なのだ。自由の利かない身体だけれど、妻子の前で辛い顔をできな
いと、苦しい胸の内をブログに吐露し始めた。そんなブログなのだった。
AさんがYahoo!にメインブログを持っていることを本当に偶然で知っていたので、楽天が消えて
も彼の記事を読み続けることができていたのだが、あの偶然は一体全体どうしたことなのか、思
えば不思議なことだなあとよく思ったものだ。
あまりの偶然に驚いて、その時に何を調べていたか忘れてしまったのだが、何かを調べていて、
その検索結果の中のサムネイルに、見覚えのある名前が入っているものがあることに気がついた。
ブログタイトルも違うし、文にその名が入っていなかったら、スルーだったと思う。それは、彼
が記事で使っているお子さんの仮名だった。実はその仮名、亡夫の北海道の親友のニックネーム
と同じだったものだから、ことのほか印象深かったのだ。
AさんのYahoo!ブログの引っ越し先には、数件の記事が更新されていた。久しぶりに読む彼の記
事だったが、ああ、なんとAさんはまた新たなトラブルに巻き込まれていた。しかも、ちょっと
どころか、だいぶシャレにならないレベル。そんな医師がいるのか?と思うが、いや実際にいる
ことはニュースで知っている。今やこの国は、総理大臣が公然とバレバレの嘘をつくような人物
でも、権力の座に居座り続けられるという、頭から腐ったなんでもありの国だ。
でもなぜ、あのような酷い異常な事態にみまわれたのが、よりによってこの人の家族なんだ。Aさ
んを見ていると、運命の神さまがもしも本当にいるのなら、どうしてこんなに意地が悪いのかと思
う。世の中には、ずいぶんお気楽そうに暮らしているようにしか見えない人も、たくさんいるとい
うのに。
あるブログ 3
|