逃げ水
もしこうだったら、ああだったらといつまでも思い巡らせるのも空虚なものだけど、 それをまぎらわせてくれる何かも、欲しいとも思わぬほどに時が過ぎた。 たとえその場所へ帰っても、もう想い出以外何も無いのに、今年ひょんなことから私が見 たことのない、まだ物心もつかない小さい頃の写真が、思いもかけない人から手に入った。 私の実家の庭の、のちに植木屋が百万円で売ってほしいと言ったという、造り込まれた松 の木の前で、祖母が縫ったんであろうネル素材の着物に身を包み、写真を送ってくれた小 学生くらいだったその人に抱っこされている私。うちの庭は当時、近所の子どもたちのた まり場のようになっていたんだそうな。 何もなくなったあの場所が、せめてもの償いにとでもいうふうに、全てを終わらせる私に もたらしてくれたかのようだった。けれど、それは結果的に約十万円と引き換えだったが。 人聞きの悪い言い方だが、それは仕方のない出費であったのと、お陰様によって最低の 金額で済んだ結果。けれどやはり私にとっては、ため息と一緒でなければやりきれないの だった。細かく書くのは躊躇われるので、だいぶ端折った。見えない話で…<(_ _*)> たった十八年。正味十五年くらいしかない儚い想い出から、老いても離れない心。 私が惚けたら、あの想い出の中に棲めるんだなぁと、この頃は思う。★ Yanni - A Little Too Late ★