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15cmだけ開けた窓からベランダに手を出して、着ていくジャケットを選ぶ。汗かきの僕がここで間違えるとその日一日はどんなに占いの結果が良かろうとも失敗だと思う。慎重に手の先に感じる空気の温度を測る。パーカーの上に黒いテーラードを羽織って出かけたその日は、見事に失敗に終わった。妙に混んでいる電車に乗ったときに今日から新学期だってことに気付いて、それから4月になったことを思い出した。駅前の広場に空の殆どを覆った雲の隙間から薄く日差しが落ちていて、僕は額に薄っすらかいた汗を指先で拭った。
「オマエが誰かと付き合ってる姿ってのは想像できないな」 待ち合わせた場所からすぐ近くにあるコーヒーショップには、まだ僕とマリコしか居なかった。メンバーが時間どおりに集まる筈が無いのが分かっていても、律儀に集合時間を守る自分の几帳面さは、実はそんなに嫌いじゃない。ただ、全員が集まるまでポツリポツリと集まりだしたメンバーとその場しのぎの時間つぶしをするのは少しだけ苦手だったりする。僕の次に来たのがマリコで良かった。携帯には2人から5分くらい遅れると集合時間の10分前にメールがきて、かれこれ15分が過ぎる。コーヒーショップの外のテーブルで本日のコーヒーとタバコを2本、それだけの時間はたぶん、余裕がある。 いつも周りの盛り上げ役になるマリコに彼氏が出来たと聞かされたときの正直な感想だった。外見は、悪く無い。と思う。常々、仲間で馬鹿騒ぎをするのが好きで、それを邪魔されるくらいなら彼氏は要らないと言うのが彼女の信条のひとつであって、僕らはそれを素直に認めることが出来た。 「意外とね、まぁ、うん。まだよく分かんないけれど」 生クリームがたっぷりと乗ったカフェ・オレにぷすりとストローを差して、成り行きでね、と付け加える。ふうん、成り行きねぇ。とりあえず相槌を打ちながらそんな成り行きの恋愛をした記憶を探ってみるもロクなものが無いことに気付いて次の言葉に困る。それも、いいんじゃない、我ながら嘘臭いと思う言葉で取り繕う。 本日のアイス・コーヒーのカップに氷だけが残り、携帯が鳴る。紙のカップを手にとってゴミ箱を目で追いながら立ち上がった。集まりだしたみたいだね、生クリームだけが無くなった手元のカップにストローを差してマリコもゴミ箱を目で追った。 駅前の広場に見慣れた顔が見える位置まで歩いたところで、「ところで、」後ろからマリコの声が聞こえた。 「ウソ、なんだけど」 「何が」 「彼氏の話」 「は?」 「エイプリル・フール」 歩きながらマリコの方を向いて、目を逸らして口を尖らしている顔を見る。 「リアクション薄いし、つまんねー!」 「微妙なんだよ、オマエのウソはよ」 僕はそこで声をあげて笑う。あいつ等にも、それ言ってみたら?提案してみるけれども、まだ口を尖らせたままで、いいよ、どうせ信じてもらえないか微妙なリアクションされるんだと言う。 「まぁ、そうだろうな。それでいいんじゃない?」 「んー、まぁ、エイプリル・フールって、そんなもんだよね。ネタとしては」 それでいいんじゃない?---彼氏とか、作らんでも。 そう言いたかったんだけどな。まだ、もう少し、誰かだけのものになるんじゃなくて盛り上げ役やってるマリコと、あいつ等とバカやってたいの。な。 ***** エイプリル・フールに彼女が出来たと言ったこと、あります。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.04.03 23:04:39
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