筒井康隆『銀齢の果て』
~新潮文庫、2008年~
筒井康隆さんによる長編小説。
爆発的に老人人口が増えたため、老人相互処刑制度(シルバー・バトル)が導入された日本が舞台です。地区ごとに、一定年齢以上の老人が相互に処刑し、1人だけ生き残ればその人は生き残れ、複数人生き残った場合は厚生労働省の中央人口調節機構(CJCK)の担当官が全員処刑するという、壮絶な設定です。
主人公は宇谷九一郎さん。別の地区で生き残った、友人で元警官の猿谷さんとともに、できる限り無益な殺人はしないようにしながら、状況をうかがっていきます。
場面は時折急に変わり、別の地区の戦いの様子や、九一郎さんの地区の別の人物の視点から描かれることもあります。
ひどい神父に対する4人の女性の復讐劇や、別のバトル地域での熊(ゆう)さんの殺戮など、凄惨なシーンもあれば、筒井さんならではで、殺し合いがコミカルに描かれる場面もあります。解説にもあるように、極限状態だとたしかに意味にならないような叫び声をあげてしまうだろうな、と納得できる部分もままありました。
終盤の最終決戦、そして各地区で生き残った老人たちの行動は圧巻です。
物語の中で、政府がバトルを開始させておきながら、被災地域や障害者は免除とするなど、後手後手の方針転換が示されるあたり、昨今の現実の状況を連想せずにいられませんでした。
これは面白かったです。
(2022.02.17読了)
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