夏目漱石『こころ』
~新潮文庫、1983年改版~
人に裏切られ、また人を裏切ることになる一人の人物を描く物語です。
鎌倉で、書生の「私」は先生に出会います。先生は、学があるにもかかわらず、特段の仕事もせず、世間から離れて暮らしていました。そんな先生にどこかひかれた「私」は、何度も先生の家を訪れるようになります。
必ず一人である人物の墓参りに行くこと。決して過去のことを語ろうとしないこと。とつぜん、激するように「私」をさとすこと。どこか暗い影のある先生のこうした言動に、「私」は先生の過去を聞きたいとせがみます。生きた経験から、先生の様々な言葉があるのだろう、と。
しかし、実家の父が病になり、「私」は故郷に戻ります。兄弟に連絡をとり、父の死を待つような状態になる中、先生から手紙が届きます。
そこで先生は、自分の過去を「私」に託します。
過去に一度読んでいましたが、記事が書けていなかったので、このたび再読しました。
もともと新聞に連載されていたようで、一節一節が短いので割と読み進めやすかったです。
高校か中学の教科書か何かで読んだときは、先生の手紙のなかの、先生とK、そしてお嬢さんたちのやり取りが中心で、どうしてもそのイメージがありましたが、そこは本書の第3部。書生の「私」と先生の交流を描く第1部「先生と私」、そして「私」と家族(両親)を描く第2部「両親と私」も、印象的でした。
第1部では、先生が謎の人物のように語られ、何が先生を今のような生き方にしたのか、「私」と同じように関心を持ちます。第2部では、いなか特有の考え方への反感、両親や家族への思い、そして先生の手紙を受けてからの「私」の行動など、印象的なシーンがありました。
(2022.08.27読了)
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