村山由佳『天使の卵』
~集英社、1994年~
1993年、第6回小説すばる新人賞受賞作の長編小説です。
物語の主人公は、美大を目指しながら浪人生となった一本槍歩太さん。幼い頃に父親が精神を病み入院し、歩太さんは母の営む小さな飲み屋の手伝いをしながら、勉強を続けていました。
ある日、予備校に向かうために乗った電車で、彼は気になる女性を見つけます。満員電車に乗るのをためらっている彼女のために場所をあけたり、押し倒れそうになるときに彼女をかばったり…。話もしないままに駅で降りた歩太さんは、そのことを後悔しますが、後日、意外な場面で再会することになり…。
何年もコミュニケーションがとれない父。母を慕う常連さんと、二人をひやかす歩太さん。また歩太さんは、大学に合格した恋人と少しずつ疎遠になっていき、そんなとき出会った女性…。と、主な登場人物はこうした人々ですが、大きなドラマの連続で、衝撃的な展開でした。
一方、節ごとは短く、緩急ある構成となっていて、大きな出来事と日常がうまくバランスをとっていて描かれるので、重さにやられてしまうこともありませんでした。好みの構成でした。
タイトルはアクセサリーの名前とのことですが、主人公が「画家の卵」であることに気付き、タイトルの奥深さをかみしめた読後でした。
十何年も前に人から「面白いよ」と聞いていた物語で、この度読めて良かったです。
つらくもありますが、好みの物語でした。
(2022.11.19読了)
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