山田詠美『ぼくは勉強ができない』
~新潮文庫、1996年~
勉強はできないけれど、人気者の高校生・時田秀美くんの一人称で語られる連作短編集(ただし、番外編は三人称スタイル)です。
転校した先の小学校で経験した理不尽(勉強できない同級生を先生も含めて見下す風潮)の思い出と、高校のクラス委員長選出でぼくより数票差で選出された、成績優勝な脇山の考え方を変えてやろうと試みた結果を描く表題作、「ぼくは勉強ができない」。
ぼくと同じくサッカー部に属し、虚無だのなんだのと高尚な悩みを語る植草がケガをしたときの本音を描く「あなたの高尚な悩み」。
雑音をきっかけに政治家になると宣言した後藤のその後と、恋人の桃子さんとのすれ違い(「雑音の順位」)。
化粧をして登校するため教師に目を付けられていたぼくの友人・真理のこと、そして桃子さんとの関係を引き続き悩む「健全な精神」。
父親がいないことをぼくの行動に結び付けて叱ってくる教師への対抗を描く「〇をつけよ」。
風邪で学校を休んだ日、人間は本来25時間周期の動物だと話をしていた友人が自殺したことを知る「時差ぼけ回復」。
友人が、クラスでも人気の山野に夢中で、かわりに告白してほしいと依頼してくる。行動したぼくを待ち受ける意外な展開を描く「賢者の皮むき」。
進路をどうするべきか、決断をするときを描く「ぼくは勉強ができる」。
そして、小学校の頃の教師・奥村が秀美の母、仁子の言葉や秀美の言動で少しずつ変わり始める「番外編・眠れる分度器」。
以上の9編からなります。
なんといっても「ぼくは勉強ができない」と、その後日譚を描く「眠れる分度器」が好みです。特に後者で描かれる、転校前の教頭先生とのやりとりは印象的です。
「生きてる人間の血には、味がある。おまけに、あったかい」(197頁)
久々の再読なのですが、この言葉に、「ああ、これだ(った)」と感慨深くなりました(語彙のなさが恥ずかしいかぎりです)。
教師からは好かれるタイプではないですが、しっかりと自分をもって生きる時田さんが素敵です。
良い読書体験でした。
(2022.12.06読了)
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